3話

「お母さん、どこへ行くの?」


メリルは母親を見上げ尋ねる。返事はない。

繋いでいる手の温もりも、匂いも、母親の顔さえもない。

それでも、隣にいる人が大好きな母である事だけは不思議と理解できた。


あぁ、夢か......


一番幸せな記憶、何度も夢に見た記憶。

なのに夢に見るたび悲しくなる。

見るたび、一つ、また一つ、母を忘れている事に気がつくから。


「絶対、見つけるからね」


メリルはそう呟くと、繋いでいた手を離した。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「あっ、起きました?」


目覚めると男が話しかけてきた。

ベット横の椅子に座りこちらを見ている。


この男、私が召喚した......アイウラエツだったかな?

確か、この男がパーダベアーに走っていくのを見て、眩暈がして.....

そうだ、パーダベアーに狙われている状況だった。


「パーダベアー...魔物は?」

「倒しました」

「倒した!?パーダベアーを!?」


ありえない......

熟練の冒険者パーティでも手こずる魔物のはず、それをたった一人で?

確かに倒すように命令したけど、せいぜい私が逃げる為の囮にしかならないと思っていた。


メリルは周りを見渡す。

今までいた小屋とは違う作りの部屋、窓の外には畑が広がっていた。


あの小屋じゃない.....もしかして本当に....


私の様子を見て、エツが口を開く。

「あの小屋の近くの村ですよ。村の住人に頼んで休ませてもらってます」

「魔物はどうやって倒したの?」

「魔法を使って剣を振ったら、なんか死んでました」

エツは体を必死に動かし、再現し始める。

「ガッーーって来たから、目を瞑ってスッって剣を振ったら...」

「うん、もう大丈夫」


.....全くわからない、けど、嘘は言ってなさそう。


私の家系に伝わる召喚魔法は、異世界から強力な力を持つ魂を召喚する。

この男にも、何かしら特別な力があるのだろう。

パッと見は、何も感じないけど.....


「俺からも聞いていいですか?」

「どうぞ.....」

「何で平気なフリしてたんですか?」

エツは真っ直ぐこちらを見て質問をした。


それは、君を信用していないから。

心の中でそう呟く。


いくら主従の契約を交わしたとしても油断はできない。

弱みを見せれば、反撃の意思を生んでしまう。

旅から学んだ事の一つだ。


「急に体調が悪くなっただけだよ」

「.....そうですか」


部屋に沈黙が流れる。

静かな部屋の中、ふと疑問が浮かんだ。


「何で私を助けたの?」


私を囮にして魔物から逃げる事、それが無理でも、魔物を倒した後、あの小屋に私を放置しておけば、私は死んでしまっていただろう。

簡単に殺すことだって......

そうすれば、この男は自由の身になれたはず。


エツは不思議そうな顔し、口を開く。

「いや、約束したじゃないですか貴方の力になるって」


「えっ」


何を言っているんだこの男は


「私は君をいつでも痛めつけられるんだよ?やろうと思えば多分死ぬまで痛めつけられるし、それに君を脅してあんな怪物とも戦わせたし.....」


いや、私も何を言っているんだ!

頭が混乱する、今までの旅の学びが目の前の男に通じない。


「こっ怖すぎる、まぁ痛めつけられるのは勘弁だけど、貴方が俺の恩人である事は変わりないし、何よりも、母親のこと話してた時、悲しそうな顔してから、会わせてやりたいって思ったからかな?」

エツは照れくさそうに応える。


「ふっ!」

つい、笑ってしまった。

まさか、こんな事を照れながら言うなんて思わなかった。


「何だよ、急に笑って...」

「いや、ごめんごめん面白くてついね」

エツは不貞腐れた顔を膨らます。


「君は度を越したお人よしなんだね」

「別にそんなんじゃない」

「そうなの?でも、私は君に興味が湧いたよ」


彼のことを信用したわけじゃない。

けど、会ったばかりの私を助ける為に命を賭けた彼に興味が湧いた。

彼と旅が出来たら、辛かっただけの旅が変わるそんな予感がする。


「敬語もういいよ?呼び方もメリルで」

「わっ、わかった」

訝しんでいる彼を見て、また少し笑ってしまう。


「助けてくれてありがとうエツ」

「どういたしまして」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界ブラック生活〜異世界に転生したらドSエルフの従者になってしまった〜 @ikura1229

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画