第4話「トラック4/エピローグ」

(ひぐらしの鳴き声)


「ん……うーん、んぇ、あれ? 私なんで寝てんの? ていうかここ——ウワァ! やっぱそうじゃん、おまえんちじゃん! えぇぇなんでぇ!? ていうか夕方やん! 祭り始まっちゃうやんもう! ハァ、えー、マジでなんでこんな……」


 何が何やらな幼馴染ちゃんの前に、あなたは正座で向き合います。


「……え、なんなん、そんな改まって。ちょっと顔赤いし、なんなん——え? 『祭り一緒に行こう』? はぁ!? 昨日と態度全然ちゃうやん! なんでそんな急に態度が反転すんねん! あのなぁ、私にも予定ってもんがあるんやでな! せやから——え? 『気持ちに気づかんくてごめん』? え——え……?」


 今度は幼馴染ちゃんの顔がどんどん赤くなっていきます。良いですね、青春ですね。もう両方ゆでだこみたいになってますね。


「……その、えっと……私、ここに来た覚え全然ないんやけど——ていうか部屋の前までは覚えとるんやけど……なんか、そのあたりで熱中症みたいになって——もしかして、介抱してくれたん? そん時私、なんかうわごとでも言っとったん……?」


 厳密には全然熱中症とかではないと言うか、そんなことになっていたら、あんなことしている場合ではなかったのですが、とはいえ本当のことを言ったところで、現状の互いのテンションでは余計に話が拗れてしまいかねません。


 それに、お姉さん(仮称)からも幼馴染ちゃんに優しくするよう言われています。加えて、幼馴染ちゃんの気持ちも知ってしまっています。


 そういうあれこれで、あなたは感極まってしまいました。


「ちょっと……なんでそんな泣きそうになっとんねん……。なんか私まで泣きそうになってきたわ、ちょっと照れくさい……」


 そう言いながら幼馴染ちゃんがスリスリ近づいて来て、あなたの右耳に向かって囁いてきました。


「——なぁ。私じゃあかん?」


 距離が近いので吐息も聴こえてきます。耳に入ってきます。大変です。でもあなたは先刻の諸々のあれこれを越えてきた猛者です。理性はなんとかなっています。顔は真っ赤ですが。


 とはいえここまでくると尻込みしてもいられません。あなたは幼馴染ちゃんを優しく抱きしめました。今度は左耳のあたりに吐息がかかる形です。


「……なんや。ちょっとは甲斐性あるやん……見直したで。ほんまにもう……ずっと、待っとったんやで……」


 いつしか外では人々の声が聞こえ始めてきました。そろそろ祭りが始まりそうです。


「——あ、そや。準備せなな。

 何って、わかっとんやろ? あんたはそんなに準備するもんないかもやけど、私は色々あんねん。ちんたらしとったら祭り終わっちゃうでな。

 ——一緒に行ってくれるんやろ? せやから、ちょっと待っとってな。私はもっと、待っとったんやから」


 笑顔の彼女を見ながら、あなたは『よし、大学もバイトも休みの日はできるだけ帰省しよ』などと思ったのでした。

 後で彼女にそれを伝えたら「そこまで無理せんでもええねん!」という喜び混じりのツッコミが返ってきたのは、また別のお話。


 祭りが行われる神社では、今日も誰かがお祈りをしています。その人にも、良いことあると良いですね。


〜Happy End〜

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夏休みに田舎で幼馴染とお姉さん(仮称)に耳をめちゃくちゃにされる話 澄岡京樹 @TapiokanotC

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