最終回第5話:生きる工夫をくりかえし

 もう何度も力をわたして歴史が変わり続けた。





 それは“アニウエ” のため。

 自分たちの終わらない「人間修正計画にんげんしゅうせいけいかく」を実行し続ける仕事を。






 まずは三田村みたむらと”アニウエ“の関係について話そう。







*






 ひとりの青年は全てを格闘技にかけていた。

 マイナースポーツになってしまうタイプの競技きょうぎでそれでもずっと立ちたかった舞台だったからこそ目指していた。






 その願いは“アニウエ”も同じだった。






 いつからかおたがいの名前が分からなくなった。

 仲が悪いわけじゃない。






 青年たちは必要があった。







 だからといって青年たちは自分らを特別な存在とは思うことはなく、人間のうらみがあるかぎり歴史を変え続けるための力を強くなるために手に入れてしまったから。








 フィクションでは危険をおかして手に入れた力にはリスクやつみがあるとばっせられるが青年たちはただ対価たいかとして人間の恨みを晴らし、歴史を修正し続けた。







 “アニウエ”は青年を変わらない人間の負を修正する役割やくわりから解放かいほうさせるために力の元となる正体不明なものを修正しようと恨み、別の力を手に入れた。







 力には力でしか解決かいけつできないとあせった“アニウエ”は皮肉ひにくにも本人が力そのものになってしまい、今は偽名ぎめい三田村朶紙みたむらえにしと名のって力の元から命じられた『人間修正計画にんげんしゅうせいけいかく』を実行する。






 かつての青年である三田村みたむらは寝たきりの”アニウエ“がいつか目が覚めるまでリングの上では何度も変わる自分自身の歴史でプロライセンスを習得して戦いを行い、表の世界では人間としての日常を仲間たちと共に送る。






*





 伏常世ありぜいはいつものように力を渡していた。






 また歴史が消える。

 “アニウエ”様のために戦う三田村みたむらを見ているとどうしても自分も無理な頑張がんばりをしてしまう。






 おそらく“アニウエ”様が人間として昔のように生活出来る可能性は少ない。






 伏常世ありぜいが今まで力を渡してきた人間をみていると。

 三田村みたむらのように選べないから。






「今日はめずらしく伏常世ありぜいさんと合流することになるとは」







 紫耀眷しょうけんか。

 秋の高校生活はとくに苦しくもなく過ごしていそうだ。





「お前も消えた歴史の中でよく高校生活や大学生活を送ろうと思えたな」







 いくら三田村みたむら戸籍書こせきしょ手配てはいしているからって適応てきおうしすぎだと伏常世ありぜい紫耀眷しょうけんの青春を心配していた。







「俺は教育係をまかされていて最近弟子も増えたからかちゃんとした人生を送ろうと思っただけですよ」






 ちゃんとした人生か。

 これ以上誰かが作った幸せを目指しても自分の幸せをえるためにしろ、もう頭打ちかもしれないのに。







 伏常世ありぜいは人間嫌いだった。

 自分がやっている格闘技の競技化によって多少納得なっとくいかないことは増えたが勝てば存在を許される世界にみいられていった。





 だからこそ三田村みたむらのサポートと力の受け渡しで危険人物とされる相手ともやり取りができる。





 そこまでしても“アニウエ”が願った普通の生活にはほど遠い。






 栗栖川皮姐くりすがわあすらといった戦闘経験豊富せんとうけいけんほうふな仲間もできたがなかなかこちらとコミュニケーションをとろうとしない。






 日嗅ふかいだ論外ろんがい






 ただ三田村みたむらが気にかけていた女子中学生はどうなったのだろう。






 死んだとも言えるし生きているとも言える俺たちが住むこの世界は本当にいつも通りの日常なのだろうか。






伏常世ありぜいさん考えすぎ。 対価たいかを受け取って好き放題してしまえる俺たちにとって日常はいつも理不尽りふじん。”アニウエ“様の目覚めを三田村みたむら さんはあきらめていないだけかもしれません」







 ひとこきゅうおいて缶コーヒーを渡してくれた紫耀眷しょうけん伏常世ありぜいに問いかける。





「幸せではなくて、今とのおりあいをつけていくだけでも俺たちは誰かを救っているといえないですか?」






 いくら成人が18歳に引き上げられたからって紫耀眷しょうけんは良くも悪くも高校生だった。






 彼の手から缶コーヒーをとり伏常世ありぜいは立ち上がる。






人間修正計画にんげんしゅうせいけいかくをここで終わらせるために俺たちは今を生きて明日から次へとつむいでいく。 そう言われてみればそうか」







 三田村みたむらからの連絡があった。

 いつも通り自分たちはよごれ仕事。






 それでもかまわない。

 いつか三田村みたむら紫耀眷しょうけんたちと本当の人生を歩むために。





 いや、本当の人生を歩んでいるからこそ今も戦っていける。






 消えた歴史のツケを払わされるというのなら俺が力を許さない。







 すると紫耀眷しょうけん伏常世ありぜいの思っていることを察したのか肩に手を置いた。







「俺もちゃんといますから。 俺たちで持ちたくない力とくりかえす歴史にいどみましょう。 なぜなら、リング外では戦いたくないから。 まちがってたらごめんなさい」






 たのもしいやつ。

 なら今日もできることをやるか。






 三田村みたむらが何を考えているかは分からない。

 それでも同じファイターとして、人間として手伝い続ける。






 負の歴史がおそいつづけてこようとも。






〈了〉

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アンチワンサイドゲーム 釣ール @pixixy1O

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