第4話:男子高校生最後のすがたとひとりの男

 三田村みたむらたちと行動をともにするメンバーの中でひとりだけ成人になったばかりの男子高校生がいた。






 紫耀眷しょうけんはボクシングでもMMA総合格闘技でもプロレスでもない競技きょうぎ三田村みたむらたちと共にリングへ上がり強さをたしかめている。






 それでも表を生きる人間としての生活にとくにじゃまが入ることはなく、かといって人生の成功者として求められている生活をしているわけでもない高校生活を送っていた。






 ふだんはおしゃれもするし安い飲み物や食べ物なんて口に入れないが高校生活ではペットボトルとコンビニの商品がいちばん落ち着くことが多いのは秘密ひみつ







 紫耀眷しょうけんは今日も歴史が消え、うらまれた人間がメンバーに消されたことを脳に通知されながら授業じゅぎょうを受ける。







 どれだけ生きていても幸せのためではなく仕方なく大学や専門学校へいったり、就職したりなにもしなかったり。







 きりひらき続ける人生なんて存在しなくても今を生かされている高校生たちは進路を目指していて勉強している。






 今日もメンバーにあったら新しく仲間になった力の持ち主たちの教育だ。






 バイトみたいな役割やくわりだがこれも命令でありお願いだ。







 試合前の練習や減量げんりょう三田村みたむらたちの計画。






 いつも納得なっとくしているわけじゃない。

 それでも信頼関係しんらいかんけいはある。






 でも。







 そこから先の思いをかかえながら紫耀眷しょうけんは今日も友と過ごしていた。







*




 またひとつ歴史が消えた。

 紫耀眷しょうけんたちにしか分からない力の受け渡し。






 それでも数多くの仲間が増えてはいる。

 みな行方ゆくえをくらませてなかなか自分たちの前に姿を現してはくれないが。







 力の持ち主たちについて三田村みたむらから教育係きょういくがかりをまかされている以上は高校生活と試合前の練習や準備と両立するしかなかった。

 そんな時代でもないはずでもやらないといけないことはいつも変わらない。









 過去のある日について。








「あなたは何故おれを・・・この紫耀眷しょうけんたよらない! それほどおれが力不足ちからぶそくだとでもいうのか!」







 あてにしているとまで言うのは押しつけがましく感じただけと三田村みたむらは言えなかった。







「新人を育成する仕事が苦手ならなおのこと紫耀眷しょうけんを頼ることはできない」







「あんな雑魚ざこどもを集め、いままでの歴史をくりかえし続ける人間の二次創作にじそうさく納得なっとくするつもりか!」








 三田村みたむらは少しだけ力をだそうとする。

 紫耀眷しょうけんをおどしたくはなかったが。

 やはり二十代前半の自分たちよりも若い彼には言葉だけでは伝わりにくいか。







「その人間たちも大半は死んでいる。 リストアップした人間たちとどうつき合うか、力を渡すかは紫耀眷しょうけんしだいだ。 そんな経験が出来るのも俺たちならでは。 オマエもただの男子高校生でも…そしてこれから得る肩書かたがきにもふりまわされない地位ちいだ。 その人間たちを使役しえきするのも試合後のストレス発散はっさんになる」








 舌打ちをしたあとに壁をなぐろうとしたこぶし紫耀眷しょうけん自力じりきでとめた。








「あなたを信じます」







 どうやら三田村みたむらが思っていたよりも紫耀眷しょうけんは大人だったようだ。






 そう思うとおりにはいかない工夫。

 やはり世界は誰にも優しくない。






「悪い。 ガキあつかいしてたつもりはなかったんだ」






 紫耀眷しょうけんはさっきまでの迷いはもうなかったかのように笑みを浮かべる。






たよってくれと言ったのは俺なのに理不尽りふじんすぎた。 そこまでメンヘラでもないのに。 散っていった仲間たちを探しに行く」







 そして現在げんざい

 管理するまでもなく力を渡され新たな歴史を歩む持ち主たちはとっくに自立じりつしていた。







 戦闘訓練を受けたいと願う持ち主がいたら紫耀眷しょうけんが空いたスケジュールを使って教育する。







 教育係きょういくがかり三田村みたむらの頼みならまんざらでもない。






 かといって新しい歴史でうらむ相手が消えた世界で生きていける連中れんちゅう戦闘訓練せんとうくんれんなんてほしがるのだろうか。






「すみません。 あなたが紫耀眷しょうけんさんですか?」






 ほほう。

 うわさをすればもうやってきたのか。





「俺、もう誰にもおぼえられてなくて。 せっかくかたきをとってもらったのにまた次のトラブルにまきこれてこまっていて。 俺に力を渡してくれた三田村みたむらさんを探していたら仲間にあなたがたに会いにいけと言われたから」






 情報網じょうほうもうは今まで力を渡した人間たちのなかで作られはじめているか。






 しかたがない。

 紫耀眷しょうけんは昔のことを思いだした。






 中学生から戦い続けていて結果がだせず周りから嫌がらせを受けた武道家時代ぶどうかじだいを。






 三田村みたむらは優しい人間ではなかったが自分に居場所を教えてくれた。






 ともにこの世界のワンサイドゲームで終わらせないとちかったことを。






 もうすぐ高校生活も終わる。

 今の仲間とは笑って別れていつか出会うつもりだ。

 自分が死なない間に。







 紫耀眷しょうけんは仲間である力の持ち主に簡単な技から教えはじめた。






「この世界は何度かきかえても地獄でしかない。 その前提ぜんていを忘れるな」






 たしか前にも三田村から教えられたか。

 同じ言葉を使いたくなかったのに。






 思うとおりにいかないのも仕事のうちか。

 そう割り切って新しくできた人間関係に集中する紫耀眷しょうけんだった。

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