プラチナの林檎

4.プラチナの林檎 (ルーミ)


18の夏。俺とホプラスは、若いが、仕事ぶりの硬い冒険者コンビとして、そこそこ名を売っていた。


あるクエスト。貴金属の鉱山で、モンスターに化けた泥棒が出た。最初はモンスターだと思ったのだが、捕らえてみれば人間だった。


クエスト自体は簡単なものだったが、鉱山のある土地は険しく暑く、また、現地の警察がギルド嫌いで、犯人の引き渡し(人間の犯罪者の場合は、最終的には警察に引き渡す)に手間取り、ギルドに報告にもどった時には、嫌な疲れ方をしていた。


ホプラスがクエスト終了手続きを取っているあいだに、俺は顔馴染みのギルドメンバーに捕まった。


「おい、ルーミ、これ、お前のことじゃないか?」


王都から尋ね人チラシがきていた。




《名前:ルミナトゥス


性別:男性


姓:不明


年齢:17~8


身長・体重は不明


髪:金髪~明るい茶色


目:緑系


系統:北西コーデラ系


魔法:不明


出身地:ラズーパーリ


心当たりの方は、連絡して下さい。


王立魔法院内


宮廷魔術師アプフェロルド・オ・ル・ヴェンロイド男爵





渡してくれた男は、俺より明るい金髪で、目はグレーに近い、薄いブルーだった。呼び名はパルミィだが、本名は、たしか、発音しにくい、長たらしい名前だった。最北系というやつだ。


「最初、俺の事かと思ったが、魔法院に知り合いなんていないからな。お前のほうが、条件にに近いだろ。」


確かにそうだが、俺も、魔法院なんぞに知り合いはいない。


この前、ホプラスに似たような尋ね人があって、湖畔のオッツまで出掛けたら、「噂の美青年コンビを一目見たい」という、暇人の道楽だった。


ホプラスが、帰るよ、と俺を呼んだので、チラシをポケットに突っ込み、後を追った。そのまま忘れた。


それから、しばらく。


久しぶりに、ラールから連絡があった。頼みたい事があるから、オッツの湖畔の港まで、来てくれ、と言われた。連絡を受けたのはホプラスで、即引き受けていた。


「何だよ、俺に断りもしないで。」


と、俺は文句を言った。


「何だ、ラールだよ。梅の季節以来じゃないか。予定もないし。いつも、率先して引き受けるじゃないか。」


ホプラスは、探るように、俺を見た。やばい。


「何か、かくしてるだろ。」


「い、いや、別に。」


「ラールに、何かされたのか?」


「どういう意味だ、俺は男だ、俺がしたに、決まってるだろ!」


「…ほぉ。やっぱりなあ。」


ホプラスの目が座る。結局、白状させられた。


梅の季節、ラールに、俺たちの仕事を手伝って貰った。大成功で、三人とも上機嫌、夕食を一緒に取り、俺とラールは、名物の梅酒を飲み比べ。ホプラスは、アルコールなしの梅ジュースを飲んでいた。俺はラールには負けたが、機嫌よく酔った。ホプラスが、酔った俺を部屋に連れていこうとしたが、その時、皿をひっくり返した子供がいて、少し手を怪我したと、泣いた。ホプラスは、その子に回 復をかけた。


ラールが、


「歩けるから、連れていくわ。端の二人部屋よね。」


と、一人で部屋に連れていってくれた。


ドアの前で、お礼を言うついでに、ラールの唇に。


「…そしたら、『お子様が、酔ってするようなことじゃないでしょ!』と、頭をこう、両側から、拳でぐりぐりと。」


それで、もうしません、と叫んでいた所に、ホプラスが戻ってきた。どうしたんだ、とたずねる彼に、「酔いざましをね。」と、ラールは微笑み、自分の部屋に行った。


翌朝早く、俺達が起きる前に、ラールは発っていた。


「だいたいさあ、あれくらいで、怒らなくてもいいじゃないか。」


「…お前、それ、仕付けられたんだよ。」


そう言われると、当たってるだけに、なんだか、悔しい。


そうは言っても、別に、ラールをそういう意味で好きなわけじゃないし、ラッシル人はコーデラ人と比較して、あまり家族でもべたべたしないし、ちょっとは悪かったかな、と反省しかけた時だった。


「まあ、一緒に謝ってやるから。」


とホプラスが、真面目に言ったので、


「何だよ。」


と睨み付けた。


「だって、お前の仕付け、僕の責任だろ。大丈夫、ラール、別に、気にしてないと思うよ。ほら、あれだ、仔犬や仔猫みたいな。」


ほんとに、真面目に言ってる所が、質が悪い。大体、偉そうに言うけど、


「お前、そもそもないじゃんかよ。」


と言ったら、並べようとしてた、昼飯の皿を、取り落とした。図星かよ。


「ない訳じゃ…」


「ガキのころの、身内親戚、父さん、俺、エスカーなんかは、無しだぞ。」


「…養成所時代だよ。」


「ボランティアの子供もなし。」


「じゃなくて、ガディオス達と、青蘭亭で食事していたら、店の女性が、具合がわるくなって倒れかけた。助け起こしたら、仮病で。」


「青蘭亭って、なんか摘発されて、つぶれたアレだだろ。そんなところ、行くからだよ。」


「あの頃は、まだ、なんとか真面目な店だったんだよ。女将が出て行って、すぐ後くらい。とにかく、僕以外にも、何件かそういうのがあって、みんな、『紅シダレ亭』に行くようになった。拡張したころだったし。」


「…で、それだけ?」


「うん、まあ…。」


俺は吹き出した。


「笑うこと、ないだろ。」


「だって、なんか、いかにもお前って感じだし。」


昼食が終わり、ラールに会うため、オッツに向かった。


いつもは人気の夕方のクルーズだが、来週の花火大会のため、今日は出控える人が多いのか、わりと透いていた。


ラールは、直ぐに見つかった。個人用の貸切船の乗り場に、一人でいた。こっちを見て、満面の笑みを浮かべている。


よかった。怒ってない。俺は、嬉しくなって、ホプラスより一足早く、ラールに駆け寄った。




そして、ホプラスより一足早く、縄でしばり上げられた。




   ※※※※※※※※




船は揺れる。縛られた俺たちを乗せて。


「犬猫同様で、怒ってないと保証したのは誰だよ。」


「犬猫同様だから、縛られてるんじゃないのか。」


「犬猫なら首輪だろ。縛るやつがいるかよ。」


ラールは俺たちを、縛って小部屋に閉じ込めたきり、姿を消した。


「だいたい、なんで、お前まで、ホプラス。」


「お前をおいてく訳にいかないだろ。それに、ラールだし、別に、変なことにはならないだろう。…お前だって、随分、あっさりと。」


「まあ、一度、しばかれるくらいはなあ、と思ってたし。それにしても放置はきつい。はあ、腹減った。」


やがて、ラールがやって来た。俺達は、同時に、彼女の名を呼んだ。


ラールは、微笑んでいた。そもそも、笑顔を怪しむべきだった。


「ラール、あのさ、ホプラスがトイレに行きたいって。」


俺は試しに言ってみた。ホプラスは、はっと俺をみる。


「そう?じゃ、手伝ってあげるわ。」


笑顔だ。


「うわ、いい、やめてくれ、ラール。」


「遠慮しなくても。あんたのは一度見てるし。」


ホプラスが、本気で焦り始めた。やっぱり、縄はほどいてくれんか。


腹が減った、と言ってみるか。ほどいてくれるか、ラールが食べさせてくれるか。


「ルーミ、お前も、なんとかいえ!」


ラールは、ナイフを持っている。そう言う趣味か。キャラにはあってるか、と諦めかけたとき、ラールは、俺達の縄を切った。ぽかんとしているホプラス。


ラールは、声をあげて笑った。


「脅かすなよ。」


と、俺は膨れて言った。


「仕返しよ。」


「なんで僕まで。」


「あんた、飼い主でしょ。」


飼い主とは聞き捨てならん。反論しようとしたら、


「冗談はおいといて、ふんじばって連れてこいって、命令だから。」


誰が、と言おうとしたが、ホプラスが、


「君の主人って、ラッシルの貴族か何かだよね。それが、なんで。」


とたずねた。


「今は、別の方のために、働いているの。会えばわかるわ。」


船を降りる。オッツよりかなり涼しく感じる。ヘイヤントの水源・バイア湖。すっかり夜の湖岸。七色に夜光する浜。


西岸の七夜浜らしい。


浜沿いの、大きなホテルに案内された。警戒がものものしい。


最上階の、スイートに通される。


部屋の中央には、女性がいた。まだ少女と行ったほうがいい。色白で、柔らかくカールした、プラチナブロンド。ぱっちりした空色の目。


かわいい子だな、と思った。ラールのような完璧な美貌じゃないが、妙に人目をひく。


彼女は、ぽかんと俺をみている。ラールは、彼女に対し、どうなさいましたか、と二回声をかけた。


「まあ、すいません。お伺いしていた以上に、お綺麗な方なので、驚いてしまって。」


張りのある、高い声をしている。


「で、君、誰?」


と聞いてみた。するとホプラスが、俺を小突いた。


「何するんだよ。」


と言ったが、ホプラスは、かしこまって、少女に向かい、


「彼はルミナトゥス・セレニス。私は、ホプラス・ネレディウス。以前、短い間ですが、騎士として、お仕えさせて頂きました。ご尊顔を拝見できまして、光栄でございます。」


ど、憎らしいほど、絵にかいたような所作で、少女の手にキスした。


「ディアディーヌ王女殿下。」


少女は、にっこり微笑んだ。




   ※※※※※※※※




俺はなおもぽかんとしていた。


ディアディーヌ王女、コーデラの最高位神官。兄のクリストフ王子の死亡により、現在の、第一王位継承者。


ここは一流ホテルだが、はっきり言えば、田舎だ。なんでこんな所に、王女様が。


「私のお話を、聞いてもらうまえに、会ってもらいたい人がいます。」


王女は、右手を見て、優雅に手招きする。


そこには、一人の少年がいた。14、5位か。小柄で細い。もっと下かもしれない。魔法官の黒っぽいマントを着ている。胸元に赤い、独特のデザイン文字で、頭文字が刺繍してある。


南コーデラ系のものより、強い赤みの、赤銅の肌色。釣りぎみだが、大きな、琥珀みたいな目。そして、絵の具で塗ったように、均一な色合いの緋色の髪。


「兄さん、ホプラスさん、僕のこと、覚えてる?」


俺達は、同時に叫んだ。


「エスカー!」




   ※※※※※※※




「お前、俺達、手紙、書いたのに。何通も。」


封筒は、父さん(ホプラスの養父)に書いてもらっていたので、住所は知らない。だが、投函するのは見ていた。返事はなかった。


「春に、他界した、ヴェンロイドの祖母が、止めていて。ぼくのも、届いてないでしょ。」


ヴェンロイドと聞いて、ポケットのチラシを思い出した。


「これ、お前の父さんが?」


でも、あの人、そんなに偉かったっけ。


「それ、僕の事です。魔法力を認められて、ティリンス師に弟子入りして。」


「だれだ、それ。どっかで聞いたような。」


「…宰相閣下だよ。」


とホプラスが言った。


「お前、自国の宰相くらい…」


「わかるかよ。て、それより、アプフェロルドって。」


「名前、祖母がつけ直したんです。伝統的に、跡取りにつける名前だからって。『林檎』って意味です。ヴェンロイドは、林檎で有名なので。親しい人は、エスカーと呼びます。でも、チラシがあるのに、なんで、連絡しなかったんですか。」


「こんな大層な名前と地位、心当たりないし。エスカーと書けば連絡するよ。て、ホプラスが、前、この手のチラシに騙されて、一回、貞操の危機に。」


「ルーミ、いい加減な脚色、するんじゃない。」


「それより、エスカー、久しぶりに会うのに、なんで、ふんじばって船に乗せたり、したんだよ。」


「え、縛ったんですか、ラールさんが。」


「そうだよ。刃物持ったラールにホプラスが、襲われかけて、再び、貞操の危機に。」


「…もう、脚色するなとは言わんから、せめて上品な物にしてくれ。」


王女とラールが、揃って吹き出した。


「でも、良かった。ね、忘れてなかったでしょ、エスカー。」


と王女が言った。彼女がエスカーと呼ぶのは意外だ。親しいようだ。


エスカーは、祖母が忌の際に手紙の事を「白状」したので、直ぐに俺とホプラスの消息を調べた。しかし、俺は悪徳孤児院で死んだことになっていて、「教会の『ホプロス』」は、救助された中に該当者なしのため、死亡扱いにされていた。川に流されて離れた街に流れ着き、そこで「『ホプラス』・ネレディウス」になったため、足取りが追えなかった。


だが、最近、裁判では有罪になった、例の悪徳孤児院の院長が、獄中から回想録を出した。「子供たちには、かっぱらいで自給自足させていたので、逃げ出す者が多かったが、それらはすべて死亡扱いにし、政府支給の葬儀代を掠めていた」と記述があったので、エスカーは、俺に関する尋ね人チラシを配った。


連絡なく諦めていた時、別方向から情報が入った。


現在、王女とエスカーは、複合体の問題を解決するために活動しているのだが、そのため、腕のよい、信用できる護衛を探していた。一人は、協力体制を取ることになったラッシルから「旋風のラール」を借り受けた。あと最低二人、出来れば剣が使える者が欲しい。


「ホプラスさん、神聖騎士のスイ・アリョンシャと、アベル・ガディオスは知ってますよね。僕、個人的に、彼らと親しくしてるので、最初は彼らに頼もうとしたんですが、背景に政治がらみで色々あって、もっと、自由に動ける人がいれば、となったんです。彼らが、ホプラスさんと兄さんを勧めてくれました。ラールさんからも、知り合いの冒険者に、うってつけのが居るって。それが偶然、二人のことでした。ですが…」


エスカーは少しためらった。王女は、後は私が、と引き取った。


「チラシに反応がないのと、手紙の件があるため、エスカーは、『自分がいたら断られるのでは』と考えていたのです。だから、私が『会って直接聞きましょう。縛り上げてでも、連れて来てください。』と、ラールさんに、お願いしました。…本当に縛るとは思いませんでしたけど。」


ラールが、「ごめんなさい。こういうことだから。」と、わざとらしく言う。


「構わないよ。ルーミも『一度は縛られてみたい』と言ってたから。」


「あ、お前、品のない脚色するなと言っといて。」


再び笑う。でも、笑ってばかりではいられない。


「で、肝心の、仕事内容はなんだ。」


尋ねると、エスカーは、一呼吸おいて、真顔になり、「クエスト」内容を説明しはじめた。


副宰相だった、反逆者の魔導師エパミノンダスは、東方に逃亡して死んだが、彼が、行っていた、「究極の複合体」と言われる研究・実験の成果は、まだ生きている。複合体自体は、自然状態でも存在はするが、人工的にエレメントを凝縮させた物は強力で、人間に入れれば、魔法まで使い、意思を持った、厄介なものになる。。


ラズーパーリを滅ぼした半自然型や、クリストフ王子を殺した自然強化型の被害が騒がれるようになって久しいが、さらなる調査の結果、エパミノンダスが推進していた、「高等生物によるエレメントの完全制御と種の強化実験の結果」のため地水火風の究極体が、コーデラ、ラッシルを中心とした、どこかに配置されている。


エパミノンダスはコーデラ人だが、もともとはラッシルからの留学生で、若い頃に、コーデラの貴族と結婚して、コーデラ国籍を得た。このため、後始末はラッシルも全面協力する。


現在は、水の複合体の位置しかわからないが、それらを首尾よく浄化するには、ディアディーヌ王女の取得している、最高位の聖魔法がいる。


「水をたおすと、エレメントの流れが変わるので、その時に、次が分かりやすくなります。そうして突き止めた場所を、また…となるので、無期限ですが、季節変動による変化もあるので、最低で一年かかると見ています。師匠も、長くなればエレメント蓄積が増えるから、やはり一年でなんとか、て言っていました。どうですか、一年、引き受けてもらえますか。勿論、僕の身内とは言え、仕事のある兄さんたちを長期拘束することになるので、ギルドには正式に話しますし、報酬も払います。」


ホプラスは、「説明はともかく、報酬は…」と言おうとしたが、俺はそれを制した。


「俺達はプロなんだから、きちんともらおう。ギルドの正規料金体系に則してね。」


「ルーミ…」


「金を払ってないと、使う方も使いにくいよ。」


今回に限ったことじゃないが、こいつに金の交渉をさせるもんじゃない。損得を度外視しすぎる。


「でも、お前が気になるようなら、俺の分だけでいいよ。お前の分は、騎士団から特別任務手当てが出るはずだし。」


ホプラスは、きょとんとしていた。エスカーが、


「ホプラスさんは、『騎士団所属の、ギルド委託メンバー』ですよ。給料も騎士団から出てると思いますが、知らなかったんですか。」


と言った。さすが弟、久しぶりだが、ナイスタイミングだ。


ホプラスは、初耳のため、仰天していた。


「やっぱり、気付いてなかったか。最初の振り込みで、妙に多かったから、銀行とギルドに確認したんだ。王都の騎士団本部にも問い合わせたから、俺は、それで、気がついた。」


「なんで、黙ってたんだ…。」


「ごめん、言いそびれて。」


本当はいつ気付くか、面白そうだから、黙ってたんだが。


「一応、生活費や小遣いや、その他の支出、全部ギルドからの報酬で、賄ってるよ。家賃だけ、家をお前の名前で借りてるから、騎士団の方から払ってるけど。」


これを聞いて、ラールが、


「あんたが、財布、握ってるの。」


と聞いてきた。


「まあね。家計管理と、買い出しは俺の担当。後はホプラスだけど。…こいつに買い物を任せると、値切らないし、よく騙されるから。例えば、店番が老人だったら、身の上話しにコロッといって、質の悪いものを買わされたりとかね。」


ホプラス以外は少し笑った。相変わらず呆けている姿が、気の毒になったので、


「黙ってて、ごめん。でも、お前が、俺のために、騎士を『辞めた』のは事実だろ。今だから、言うけど、実は、すごく嬉しかった。」


とフォローした。ホプラスは少し赤くなって照れた。


うまく言いくるめたが、後に来るものが、怖いな。


「アリョンシャから、『同期のトップは、大切な人と一緒に行くために、王都に来なかった』と言ってたんだけど、まさか…。」


とエスカーが言った。ああ、やっぱりなあ。アリョンシャさんも、どういう説明を。


「…お前の想像してるような意味じゃ、全然ない!その手の冗談は、絶対に寄せ!」


「え、そうなの?」


「なんだい、ラールまで。」


王女も上品に笑い、。


「それでは、よろしくお願いいたします。報酬は、二人ぶん、お支払いしますわ。ギルドの正規料金で。」


と、礼儀正しく、優雅にお辞儀してくれた。


これ以降、俺達は、「ディニィ」の護衛になった。


王女を「ディニィ」と呼ぶのは、ラールの案だった。


「王女が複合体のために旅をするのは公然だけど、行く先々で、わざわざ、『ここに王女がいます』と宣伝する事もないでしょ。」


エスカーは、「言うな」と言われたのに、「その手の冗談」を繰返し、俺はそのたびに、「兄貴の俺で遊ぶな」と繰り返している。


それと言うのも、ホプラスが、相変わらず、俺にべたべたするのが悪いんたが。


神官のディニィは、綺麗なプラチナブロンドに、明るい青い目だったが、職業柄、聖魔法を使うために、魔法結晶を体内に入れるため、色素が薄くなってしまう、と語った。うんと子供の頃は、明るい栗毛で、目は胡桃みたいな色だったらしい。


実は、彼女は、俺より一つ歳上だった。知ったとき、びっくりした。


「お前は自国の王女の年齢も…」


とホプラスには呆れられ、


「そりゃ、ラールと同じくらいあるから、年のわりには、と思ってたけど。」


と答えたら、ラールから、


「どこ見ていってるのよ。」


と、怒られた。エスカーからは、


「兄さんとホプラスさんは、安全だと思ったのに、姫をそんな目で…」


と憤慨された。俺は、


「違う、男として、一般的な意味でだよ!」


と力一杯弁解したが、肝心のディニィは、


「あら、ちょっと残念ですね。」


と、余裕で微笑んでいた。




それから、俺達は、まず、水の複合体を倒す旅を計画した。

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