2.道行き (5) (ホプラス)
市内の一望出来るレストラン、紅垂れ桜の咲き誇る夜景。僕はルーミを待っていた。
あれから、当然の事ながら、いろいろあった。アルコス隊は隊長・副隊長の死亡により、解散。生き残ったのは、ルーミを含めて四人。そのうち、ルパイヤはザホルト隊に移った。隊に知り合いがいたのと、ザホルト隊の要件に彼の能力と年齢があっていたからだ。
キンシーはギルドを止め、故郷に帰り、親戚の鉱石採掘業を手伝う、と言う話だ。ルーミと再会した、霧の鉱石の生産地が、彼の故郷だった。
ロテオンは、幼年部の武術指南の口があったが、故郷に帰り、婚約者の実家を継ぐべく準備をすることになった。交際を相手の両親から、ずっと反対されていたが、今度の事で、ロテオンの無事が解るまでの、娘さんの様子を見ていて、気が変わったらしい。
ロテオンは、昨日、故郷に帰った。律儀な彼は、その前日に、騎士団に挨拶に来た。
《俺の口から言うのもなんですが、ルーミの事、よろしくお願いします。》
彼は、ルーミに、その気になったら、いつでも自分の所に来て、手伝ってくれと言っていた。だが、ルーミは、親代わりだった隊長に対する想いから、ギルドに残る事を、とうに決めていた。僕は、再び同居を申し入れたが、断られていた。
《一緒に住んだら、今よりもっと、仕事より、俺の事を優先するだろ。騎士がそれじゃ、困るじゃないか。学者や聖職者でも、同じことだよ。》
と、説教までされた。返す言葉がなかった。
ニルハンに飛んでいったのは、申請してからだが、正式に許可が降りる前に出た。現地では、本隊の到着を待たず、救護隊長の「これから、救出に向かうか、諦めるか検討するから、待っててくれ。」という台詞を無視し、一人で向かった。後からガディオス達が追い付いたので、行動を共にした(本隊の到着を、初めてここで知った)が、後の帰還命令も拒否。そして、騎士団用の宿舎に、ルーミを泊めた。
ただ、僕達が、ラズーパーリの生存者であることと、唯一の肉親であること、ルーミが14歳であること、等が考慮され、お咎めなしですんだ。
ルーミは、しっかりした口調で、
《そのかわり、休暇の時は、お前の家に帰省するよ。》
と言った。そして、それ以上、僕は何も言えなくなった。
ルーミの年齢と能力では、個人部門で直ぐに活躍するのは難しく、団体部門は、丁度よい空きがない、と、いう話は、調べて知っていた。だが、個人部門に登録してしばらくは、補助金が出るし、独身だったアルコス隊長が遺産をギルドに寄付し、年少の新人のための基金にしてくれたので、当分は生活には困らない、ということも、調べた。
この上、同居は僕のためにならない、というルーミに対して、僕が役にたてるのだろうか。
彼はもう、子守唄や花かんむりで喜ぶ子供ではない。
ロテオンにどう答えるか迷っていた時、寮の管理人がやってきて、僕に一通の手紙を渡した。手紙をくれるような知り合いは、外部にはいないが、差出人を見ると、ルーミになっていた。
ロテオンが、手紙のいきさつを簡単に説明した。
手紙には、郵便局の着けた、遅延の謝罪文が添えてあったが、僕はそれをむしり取り、その場で読んだ。
“親愛なるホプラス。
元気か?俺は変わりない。
こっちは、聞いてた通り、風のモンスターが出るが、予想より弱く、数も少ない。エレメント値は普通らしい。なんだか、モンスターの通り道に、すのこでも仕掛けたみたいだ。
そっちは試験だけどどうかな。お前が、全科目、トップ取るかどうか賭けてる仲間から、『是非頑張ってくれ』と言われた。
この前のことだけど、嬉しかった。ありがとう。俺も、本当は
離れたくない。
でも、お前の将来の事とか、考えると、まだよくわからない。時間もないけど、帰ったら、一緒に考えてきめよう。隊長にも、改めて相談したいし。
お前は団長に相談しなくていいのかな。
手紙なんて書くの始めてだから、おかしな所があったら御免。カイルみたいに、詩でも書ければいいんだけど。思ったことしか書けなかった。
ルーミより。”
《嬉しかった》
《離れたくない》
《お前の将来の…》
これが、ルーミの本心だとしたら?
そして、僕は決心した。
首席卒業の特典(というか、暗黙の了解)で、その日はヘイヤントの高級レストランの、特等席が、選べる。アリョンシャに聞くと、「デラパルラ」(高貴な真珠)を薦めてくれた。
《『緑園荘』や『三源太』も捨てがたいけど、『デラパルラ』は、各国料理で、メニューが自由に選べる。成功率も高いしね。》
ガディオスに話すと、びっくりされたが、
《やっぱりなあ。ちと残念だが、応援するよ》
と言われた。
全てを整えて、僕はルーミを待っている。これは、必ず成功させなければならないクエストだ。
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