第7話 追走
余命半年。
それは齢十六かそこらの女子高生の口から出るにはあまりに重たい言葉だった。少なくとも、それを聞いた直後の僕の記憶が曖昧になるくらいには。
しかし思い返すと、これまで彼女を学校で見かけなかった事や、先生が腫物を扱うように彼女と接していた事など、色々と納得してしまう部分もある。
それまでの彼女の態度や発言も含めて、それが質の悪い嘘ではないと理解できてしまう。
「『私の貴重な時間を君に費やしている』が本当なことあるか」
千早家からの帰り道に思わず吐き出した。
すっかり太陽が傾いた橙色の住宅街は子どもの声やら動物の鳴き声で少し騒がしくて、僕の言葉は誰に聞かれる事も無く空気に解けて消えた。
「ただいま」
家に帰っても玄関から連想してまた千早さんの顔が浮かんでしまう。我ながら相当キテいる。
『感染する病気でも無いし、その辺はあまり気にせず結論を出して欲しかったんだけど……まぁ全部ひっくるめて明日までじっくり考えてよ。“LIME”教えるから聞きたいことあったら遠慮なく送ってね』
それが見送ってくれた千早さんの最後の発言だった。
やはり彼女はズレている。気にするに決まっているだろう、そんな大事なこと。少なくとも僕は余命の話が無ければ——。
「おーい、お兄? ボーっとしてどうしたの。食器並べるの手伝えー」
「ああ、ごめんごめん。今行くよ」
「お兄がスマホ眺めて考え事なんて珍しーね。いや、別にどーでもいいけど」
頭の中には今日の出来事や千早さんの言葉、そしてゲーム画面が離れてくれなかった。おかげで穂香に心配をかけてしまった。
口調はぶっきらぼうだが心配していた、はずだ。多分。
結局その日は何も身が入らず、僕は高校に入ってから初めて全く勉強をせずに布団に入った。だが、
「寝れない」
時刻は二十三時。両親は寝入りが早く、穂香は受験勉強中で家はシンと静まり返っている。
一度スマホを取り出して、メッセージアプリの一番上に出てくる“千早シロ”の名前をタップしかけて、止めた。
そのまま三十分ほど体勢を変えてみたり水を飲んだりと、寝付く努力をしたがどうにもならず、耐え兼ねた僕は勢いをつけて立ち上がり、そのまま居間へ足を動かした。
そして胸中に燻る衝動のままテレビ台近くのカラーボックスを軽く漁ると、目当ての物を見つけた。
「あった……『惑星のカーミィ』」
テレビの音量を最小にし、部屋の電気も消して“Wil”を起動する。何か悪い事をしているような後ろめたさを背に感じつつ、穂香と一緒にクリアしたデータの隣の真っ新なセーブデータを選択した。
自分でもこの行動に意味があるのか分からない。だが、千早シロという不可解な存在を少しでも理解する方法は
二つ目のコントローラーも出してはみたが、一つでも操作がうろ覚えで上手くいかなかったのですぐに諦めた。
「あんなに簡単に倒してたけど、ちゃんと強いな。中ボス」
千早さんの走りでは簡単そうに見えた操作は一つとして僕には再現できなかった。
何度か負けながらなんとか最初のボスを倒した頃には日付が変わっていて、確かな疲労感と達成感に包まれ、そしてやっと眠気が襲ってきた。
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