お墓参りRTA

ちびまるフォイ

先祖「ざけんな」

「さあ、お墓参りRTA選手権もついに大詰め。

 最後にやってきたのは世界最速記録の保持者

 ハカマイリ・スルト選手だーー!」


歓声と喝采に包まれてスルト選手がやってきた。


「最速墓参り記録、作ってみせます」


「頼もしい言葉だ!! これは期待できます!!」


スルト選手の自信たっぷりな顔つきに、

司会もマイクを握る手に力がこもる。


「では改めてルールの解説です。


 墓参りRTAでは墓参りに行って、

 戻ってくるまでの時間を競います。

 

 墓参りでは"お香を焚く・花を活ける・お水の補充・食べ物のお供え"

 この4種目を1セットこなさなければなりません。

 

 スルト選手、いったいどんな墓参りを見せてくれるのか!」


スルト選手はさっそく車に乗り込んだ。


「それでは、墓参りスタートです!!」


開始のファンファーレが鳴った。

誰もがお墓に猛ダッシュするはず……が。


「す、スルト選手!? 動かない!?」


なんとスルト選手はスマホをいじっていた。


「スルト選手! すでに始まっているのに、

 お墓に移動しません!? これはどういうことか!?」


スマホをいじり終わってから、スルト選手は猛ダッシュ。


いくらお墓参りRTAの記録保持者だけあって、

すばらしい健脚を持っていたとしてもこのスタートの遅れは大きい。


すでに第2位のRTA記録保持者はお墓に到達していた。


「スルト選手、のっけから大幅なリードを許しています!

 今回は記録の更新は難しいか!!」


スルト選手も遅ればせながらお墓に到着。


ここからお供えパートの工程に入る。


「あぁっと! スルト選手!

 お香を取り出すかと思いきや……。

 あ、あれはなんだ!?」


「これは"お花型お香"デス」


「なんということだ!!

 お花とお香を合体させた便利グッズを取り出した!」


スルト選手はそのお花お香をお墓の花瓶にぶっさした。

そのまま火をつけるとお花の茎に見立てられたお香の香りがお墓を包む。


「なんということだ!

 お花とお香を合体させることで、

 RTAの時間をぐっと短くしてきたーー!!」


あとはスルト選手は持ってきた水を、お墓のくぼみに補充する。

ここにもスルト選手のRTA時短テクニックが光る。


他の参加者のように、

お香・お花・水と荷物いっぱいでお墓にダッシュするより、

水とお香だけにしていれば移動もずっと早い。


まさに世界記録保持者ゆえの最効率テクニック。


「さあ、スルト選手お墓参りのうちの3つを完了!

 最初の遅れこそあれどすでにRTAトップ記録です。

 このまま食べ物をお供えしたあと、ゴールまで走ればRTA終了です!」


しかし、スルト選手はやおら立ち上がると

なんとゴールに向けて猛ダッシュを始めた。


「ああ! なんと! スルト選手工程をすっ飛ばしています!

 ゴールへ一直線です!! 忘れてしまったのでしょうか!?」


スルト選手の目には迷いがない。

最初からそうすべきだと決めていたようにまっすぐな目をしている。


「お墓参りの工程が1つでも抜けていれば、

 RTA記録としては認められません!!

 スルト選手これは痛恨のミス!

 記録を優先するあまり手順をおこたったか!?」


そのときだった。

お墓の近くに自転車の音が近づいてくる。


「あ、あれは!?」


でかいリュック。

スマホを手元にキョロキョロする男。


そう、これはーー。



「た、宅配サービス! セメタリー・イーツだーー!!」



まさかの外野参戦に司会も叫んだ。

宅配パートナーは指定の場所を確認している。


「えっと、ここだな」


「なんと! 宅配パートナーがお墓にご飯を置き配……。

 ま、まさか! これはお供え!?」


一方のスルト選手はゴールへ猛ダッシュを続ける。

司会がすべてを理解したとき、まさにゴールテープを切った瞬間だった。


「なんということだ! ご飯のお供えを

 宅配サービスを使うことで大きく時短!!

 

 最初のスマホ操作はこれを注文していたのでしょう!

 アメイジング!! ファンタスティック!!

 

 スルト選手、大きく世界記録を縮めてのゴールインです!!」


紙吹雪が舞い、クラッカーがはじける。

お墓参りRTAの電光掲示板には、世界記録を大きく超える新記録が刻まれていた。


「ハカマイリ・スルト選手、RTA世界記録更新おめでとうございます!」


「ありがとうございます」


「宅配サービスを使うなんて思いもしなかったです」


「置き配しているときにふと思いついたんです。

 これまるで"お供え"みたいだなと」


「すばらしい。数々の工程の見直しとフローの改善。

 それこそがRTA記録を作り出すんですね」


「まだまだです。もっと縮めてみせますよ、お墓参り」


「おめでとうございます。では優勝賞品の授与です」


お墓参りRTA大会のスタッフは優勝賞品を持ってくる。

1つ1つは薄いものとはいえ、数が多くなるとどうしてもかさばる。

息を切らしながらスルト選手のもとへと手渡した。


「スルト選手。最後にひとこと今のお気持ちを教えて下さい!」


司会は最後にスルト選手へとマイクを向けた。

スルト選手はカメラに向かって言った。



「あとはもう、バチが当たらないように祈るだけです!!」



ハカマイリ・スルト選手には優勝賞品のおふだが送られた。

それでも数日後に墓石が空から落ちてきて病院送りとなった。

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