その後の話
あれから、色々あった。
結局女とは別れ、ありとあらゆる方法で小下はバッシングを受けた、らしい。どちらにしろネットの海のことなので、しばらくネットの海から上陸し都会を離れていたら、結局何事もなくなった。
菜利が都会に店を出したときも、よく分からないバッシングが女の手で行われそうになった形跡はある。しかしバッシングの隙もなくド派手にバズった。暖かいかき氷が。
「おっ。いらっしゃいませぇ」
「客がいねぇな」
店内は、普通にがら空き。
「そりゃあねぇ。暖かいかき氷とかいう色物一点張りですから。他店が真似しはじまったら終わりですよ」
「都会の宿命だな」
「まぁ、そんなだから。ゆっくりしていってよ」
彼女が、奥に引っ込んでいく。
しかしこの店。ちょっと暖房が熱すぎないか。コートを脱いだ。彼女からもらった、もこもこのやつ。背中に文字はないバージョン。
「おまたせ」
彼女が、何かを持ってきた。ブルーハワイ色。
「冷たい、暖かいかき氷です」
「冷豆腐じゃん」
「そうですがなにか?」
開き直りやがった。
さて。実食。
「おぉ、美味いなこれ」
「でしょ。非売品です」
いや売れよ。普通に売れよ。これで金取れよ普通に。
「もうこの店も畳むから、その前にここで食べてもらおっかなって」
「そりゃあどうも」
いやしかし。美味い。ただの冷豆腐なのに。いや、ただの冷豆腐だから美味いのか。ブルーハワイ色も、心なしか爽やかに見えてくる。
「町に帰るのか?」
「まさか。あそこには一生帰らないよ」
それはよかった。
「とりあえず、地方に逃げて店出して。そこで細々と続けていく感じかなぁ」
この女。意外とちゃんと考えている。
「都会の夢は捨てたくないけど、わたしの限界は、ここまでみたい」
「金はあるんだろ?」
曲がりなりにもバズったわけだし。
「無いよ。あなたの元カノ叩きつぶすのに全て
「ばかだなぁ」
「ほんとにねぇ」
美味しかった。暖かいかき氷、の、冷たいバージョン。
「俺と住むか?」
「何言ってんの。あなたがついてくるのよ地方に。いつもわたしの部屋に入り浸ってんだから」
どうやら本当に、最後まで気付かなかったらしい。
小下の本業はBtoBの広告エージェントだった。ひらたく言うとインフルエンサー関連の根回し役なので、こういった炎上に対する対策などもフリーランスで請け負う。
元カノを叩きつぶすのに、手間はかからなかった。それこそ500円玉2枚ぐらい。何せこちらには元カノのありとあらゆる暴虐が記録されているのだから。それをネットの海に放流するだけ。SNSのサブスク2ヶ月、500円玉2枚で元カノは消し飛んだ。
だから、彼女の一点賭したお金は全て普通に保存してある。
なんなら、小下のほうが菜利の1000倍稼いでいた。
「俺のおかげって言っても、信じねぇんだろうなおまえは」
「何言ってんのよ。わたしのお金のおかげよ。まじで全額
ここで言うか。いや。もう少し焦らすか。迷いどころ。
「俺が、都会一等地のマンションとか買ってたら、一緒に住んでくれるか?」
「いいわね。犬もセットでお願いするわ」
「犬ね。了解」
冗談だと思ってんだろ。持ってるよ。ってか住んでるよ。犬はこれから買うよ。よく分からないから一緒に買おうよ。
「わたしたちの、あの階段が見えるぐらい高い場所がいいわね。毎日拝んでやるわ」
「そりゃあまた高層階をお望みで」
ぎりぎりだけど、たぶん見える。だって住んでるし。
幼馴染、かき氷、都会 春嵐 @aiot3110
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