君は誰?
僕はとある遊園地の着ぐるみの中身をしている時期がありました。
その時に起こったあることが記憶に残っています。
その遊園地のヒーローショーは土日に開催されていて、多いときは30人ほどの子供が集まることもある、人気の催し物でした。
そんなショーで、僕は子供たちがステージに上がらないように舞台端にいて、盛り上げたり舞台を手伝ったりする仕事でした。
如何せん小さな遊園地でしたから、従業員が少なく、舞台が終わると急いで着ぐるみを脱いで、スタッフとして、帰るお客さんを誘導したりしていました。
正直、体力的にきつい仕事でしたが、子供たちが楽しそうにしている姿を見ていると、子供の夢を守っているようでやりがいがありました。
その日は、あまり人が入っておらず、前の席に四人家族とあとは母と子が二組いるぐらいでした。
いつもの同じ演目で、いつもと同じタイミングでヒーローが助けを求めて、いつもと同じタイミングで怪人が倒される、いつもの変わらない演目でした。
前に座っていた四人家族の子供のお兄ちゃんがヒーローに呼ばれて、舞台に上がり、怪人を倒す手伝いをしました。
それを隣に座っていた弟は羨ましそうに見ていて、僕はあの子も一緒に上げてやればいいのにと思ったことを覚えています。
しかし、それでもその子は釘付けで舞台を見ていたし、怪人が倒されれば嬉しそうに席を立って喜んでいたのでいいかと思いました。
舞台が終わり、僕はいつも通り着ぐるみを脱いで、お客さんを誘導していました。
すると、最前席で見ていた四人組の家族の子供が一人いなくなっていることに気が付きました。
僕は心配になって親御さんに尋ねたんです。
「あの、お子さんが一人どこかに行かれてませんか?」
それを聞いた子供の両親は、僕のことを訝しげに見つめてました。
「ここにいますけど……」
両親は、一人の息子を見つめてそう言いました。
「もう一人いらっしゃいませんでしたか? あの、弟さんはどちらにいったんですか?」
「弟?」
その家族は僕が何を言っているんだと言った風な感じでした。
僕はあんな小さな子が一人で他の家族の隣に座るはずがないと思い、僕自身も混乱しました。
すると、子供がこういうんです。
「ハルトはね、去年、死んじゃったんだよ」
「ハルト君?」」
何を言っているんのかわからず、頭の中で少年の言葉が反芻して、さらに混乱しました。
とにかく、家族ではないというので失礼しましたと言って、その場を離れた。
そのことを先輩スタッフに伝えると、
「もしかしたら、その弟さんは亡くなっても、一緒に遊園地に来たかったのかもな」
僕はあそこにいた子が幽霊だなんて思えず、自分の記憶が信じられなくなりました。
そして、ヒーロー役の演者の人にも聞いてみました。
「今日の講演で、どうして家族の弟のほうではなく、お兄ちゃんのほうを舞台に上げたんですか?」
すると、演者の人は驚いたような表情をして、
「あー、弟いたんだ! そっか、なら一緒に上げてやってもよかったね」
あららと言った感じに話す演者を見ていると、いよいよあの少年は自分にしか見えていないように感じ恐ろしくなりました。
しかし、今思い出しても確かにあの子は笑っていたので、不思議な感じです。
笑った顔も雰囲気も両親とどことなく似ていたので、なおさら信じられない一日でした。
どこにでもある怖い話 倉住霜秋 @natumeyamato
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