どこにでもある怖い話
倉住霜秋
壁の音と返事の声
その友人は一人暮らしをしていた。
私とその友人を中学生の頃からの付き合いで、大学生になって疎遠になっていたが、久しぶりに電話が掛かって来た。
終始、そいつは声が上擦っていて、いかにその出来事が怖かったのかが伝わって来た。
そいつのことはここではNと呼ぶことにする。
これはNが体験した話だ。
Nは壁の薄いアパートに住んでいて、隣に住む人や上の階の人が歩くと振動が伝わってくるほどの家だった。
住んで一年ほどたち、生活に慣れてきた頃だった。
特に隣人付き合いもなかったが、トラブルもなく過ごしていた。
隣には、中年の男性が住んでいて、引っ越しの挨拶をしに行った際とたびたび玄関前ですれ違う時に挨拶をするぐらいの面識だったそうだ。
その隣人が一週間前ほどから、騒音を起こすようになった。
深夜二時に突然大きなドンッ!ドンッ!と壁を叩くような音がして、Nは目を覚ますことが何度があったそうだ。
最初は特に何も思わなかったそうだが、それが何日も続き、遂にNは文句を言いに行くことにした。
呼び鈴を押して、隣人が出てくるのを待った。
すると、扉の向こうから声がした
「はい? なんですか?」
「すいません!隣のものなんですが、最近夜中になにやってんすか?」
扉の向こうから聞こえてくる声は怒気を孕んでおり、Nはそのことに腹が立ったそうだ。
「夜中にうるさいんすよ! 何時だと思ってんですか!」
「あー、響いてましたか。 それはご迷惑をお掛けして、申し訳ありません」
素直に謝る隣人に呆気に取られて、怒る気が無くなったそうだ。
「次から、気を付けてくださいね」と言ってNは自室に戻ったそうだ。
しかし、次の日になってもその音は鳴りやまず、決まって深夜二時になると、あのドンッ!ドンッ!という音がなっていた。
Nはもう諦めて耳栓をして眠るようにすることにした、日に日にその音は大きくなってきた。
あまりにも酷いため、Nは再び文句を言いに行くことにした。
呼び鈴を押すが、返事もなく出てくる様子もない。
Nはもう一度呼び鈴を鳴らすが、反応はない。
騒音がしていたので、中にいることがわかっていたNは怒り、玄関ドアを何度も叩いた。
しかし反応はなく、Nはドアノブを回し扉を開けようとした。
すると、鍵は掛かっておらず、一言文句を言ってやろうと思ったNは中に入って見たそうだ。
家の中には隣人はいた。
しかし、足が地面についていない状態だった。
Nは衝撃で、その場に固まってしまった。
脳が状況を理解すると、声を上げた。
「おい! だれかいるだろ!」
さっきの物音は何だったのか?という疑問が脳裏に浮かんだ。
急いで、土足のまま中に入るが人はおらず、Nはさらに混乱した。
その後急いで、警察に連絡し到着まで、玄関前で待っていた。
死体は関節照明のレールに金具を取り付け、そこに電気コードを巻き付けて。首を吊っていた。
死体は顔がうっ血して全体がうす紫色をしていて、唇は赤黒く変色していおり、手足も所々に痣のような跡が浮かび上がっていたそうだ。
Nはその光景が目に焼き付いてしまったと言っていた。
その後警察が到着し、Nは事情聴取を受けた。
少しして救急車も来たが、素人目で見てもあれは死んでいたとNは言っていた。
結局、あの物音は死体が壁に当たる音だと警察は言っていたが、Nはそのことが不気味だと言っていた。
音は決まって二時に鳴っていたし、死体が壁にぶつかるのもおかしい。
さらにその一件の後、大家から連絡があり、そこで気になる話があったそうだ。
Nが隣人の死体を見つけたときに、死後2週間以上は経っているだろうと警察が話していたということが伝えられた。
大家はNに、見つけてくれたことに感謝していたそうだ。
Nが最初に文句を言いに行ったときは、返事があった。
発見する一週間前のことだ。
大家が言うことが本当ならば、Nが行った時に返事をしたのは誰だったのだろうかと。
まさか幽霊が返事をしていたのか、しかしNは確実に声を聞いたと言っていた。
それならば、死体がある部屋に誰かいたのか。
もし、その人間があの薄い扉を隔てて向こうにいたとしたら、とても恐ろしいことだ。
Nは未だにその家に住んでいる。
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