シュンカンノシトウ

「こっちだ、ついて来いセレン」


 酒場を出たセレンは、ガウェインに連れられて、暗くセマい裏通りを南へと進む。


 街の外壁ガイヘキが見えてきた所で壁に沿って東へと歩いて行く。


「おい、ガウェインどこへ行くつもりだ!?」


 しばらく進むと、だんだんと建物がサビれていき、人気ヒトケも少なくなっていく。


「町の中で喧嘩できるわけが無いだろ。ちょうど良いところがある。黙ってついて来い」


 街をカコう壁のクズれた場所に出ると、そこをクグって街の南東へと出る。


「!? なんだ、ここ……。まるで、墓場じゃないか……」


 そこは人気ヒトケ一切イッサイない、暗く霧深キリブカヒラけた場所だった。


 まわりを見回すと、すぐそばに平たい岩場があったので、セレンはマントを取り、仮面を外して、荷物と一緒にその上に重ねて置く。


 さらに少し先に進んだ障害物のない場所で、ガウェインが手招きをしている。


「あれから、もうすぐ三年になるか? 多少はキタえて強くなったみたいだな、セレン」


 セレンが近づき互いに見合った所で、ガウェインはタテガミイジりながらそう語りかけた。


「戦いの前に一つ面白い話をしてやろう」


 それからしばらくの間ガウェインは、始めて出会ったあの夜、セレンの身に起こった事、それに関して己の知り得る限りの情報、そして自分の過去、今の目的を語って聞かせた。


「僕がそのクロノ!? あの夜、僕は……」


 セレンは両手で自分の腹部フクブれてノゾき込み、立ち尽くす。


「この場所こそ、その時の戦場だ。此処ココにはイマだに俺の仲間達が眠っている……。あの日、この地は蜥蜴人国リュウノヒトノクニとなった……」


 ガウェインはその足で地面をタタき、セレンのまわりを一周しながら説明する。


此処ココでもう一度、覚醒カクセイしたお前と戦いたかった。だから、ずっとこの街でお前を待っていた。最初に出会った日から、今日をどれだけびたことか……」


 ガウェインは、セレンから少し距離を取って正面で立ち止まった。


「ここは、かつて戦士だった俺が死んだ場所だ。そして今日、俺はこの場所でかつてのホコりを取り戻す」

 

 ガウェインの表情が完全なる野生の其れに変わる。

 

 獅子は片足を後ろに引き、半身になり構えた。


「セレン! 今から俺は、本気でお前を殺しに行く! だからお前も、本気で俺を殺す気で来い! アクロを助け出したければ、俺を倒して居場所イバショかせるしか無いぞ!」 


 セレンが顔を上げ、目があった瞬間シュンカン! 


 ガウェインは大地をり前へと飛び出しす!


 飛びかかったガウェインの右拳がセレンの顔面をオソう! 


 直前の会話に困惑コンワクしていたセレンは一瞬イッシュン、反応がオクれる! 


 回転気味の拳のため左右にけるのは危険! ギリギリのタイミングで後ろへと飛んだ!


 予想外ヨソウガイの動きに舌を巻くガウェインだったが、さすがは歴戦レキセン戦士センシ! 


 先程の拳は相手を後ろへと逃がすためのオトリ! 


 先にイキオいにったスピードを活かして、本命の、鉄球テッキュウのようなカタからの撃滅ゲキメツタックルをネラう! 


 まんまとサクまったセレンは、正面からの激烈ゲキレツ一撃イチゲキらい、後ろへと吹っ飛ばされた!! 


 ……かに思えたが、二年半、キタえ続けて来たその剛脚ゴウキャク跳躍力チョウヤクリョクは、ガウェインの予想を超えており、その衝撃ショウゲキを逃がして軽減ケイゲンさせることに成功する! 


 十数メートル後方に吹き飛ばされ、地面を転がりはしたが、セレンは即座ソクザに立ち上がった!


 セレンは切った口のハシから流れる血を手のコウヌグい、すぐに頭を切り替え戦闘セントウに集中する。


 やはり、相手は生粋キッスイ戦人イクサビトだと思うセレン。


 今日までキタえてきたことは無駄ムダではなかった。


 そう実感ジッカンは得られたが、あくまでそれは守りの話、肝心カンジンの攻め手が浮かばない。


「どうした! セレン! 逃げていては相手は倒せないぞ!」


 ガウェインは己の目的を達成する為に、セレンをクロノへと覚醒カクセイさせる必要がある。


 その為にはセレンにダメージを与えながらも、戦う気力はウバってしまわぬように、セレンを上手くコントロールしミチビかなければならない。


 ガウェインは動けずにいるセレンに対して、助言ジョゲンすることにした。


「お前の武器はそのスピードとバネ、そしてその爪だろう、俺のこの隻眼セキガンウバったときの貴様キサマはこんなものじゃなかった!」


 そうアドバイスして、攻撃コウゲキサソう。


 ガウェインの話を聞きながら、セレンは頭の中で作戦を組み立てていた。


「最初の約束通り、俺を倒せればアクロの居どころを教えてやろう、だが倒せなければ、俺に殺されてそこでお前は終わりだ!」


 ガウェインは攻撃のヒントを与えつつ、セレンの闘争本能トウソウホンノウに火をつけるため、言葉で心にさぶりをかける。


 戦闘セントウ極限状態キョクゲンジョウタイの中、セレンの脳裏ノウリに、あの夜の戦いの記憶キオクがおぼろげながらにヨミガエり始める。


(あの夜の再現サイゲンをすれば……)


 セレンはガウェインをニラみながら、ゆっくりと数歩スウホ、後へ距離をとった。


 そして、次の瞬間シュンカン! 


 一気にガウェインに向かって自らイキオいを付けて突っ込んだ!


 イカヅチゴトけ出し、ガウェインの目前でセレンはあの夜のように頭上ズジョウへと飛び上がった! 


 それと同時に、以前と同じパターンの攻撃が来ると予見ヨケンしていたガウェインは顔を上げカウンターの構えをとる! 


「……!?」


 そこにあったのはセレンの残像ザンゾウだった!


 セレンが正面から超スピードで突っ込み、一瞬、上へ飛び上がるフェイントを入れた為、前回と同じ攻撃が来ると心理的に釣られていたガウェインは、まんまと引っ掛かってしまう!


 セレンはスキのできたガウェインのフトコロに入り込み、ガウェインの残った右眼ミギメに向けて、その左手の五爪ゴソウハナつ!


「……!!」

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