第10話 あざまる水産1

自らを“賢者”と言った金髪の男、エド・丸野は男の王子から見ても端正なその顔を優雅に微笑ませた。

呆気に取られた王子を放置してゆっくりと横断歩道橋の階段を下っていく。


お、おい…!待て!

全く説明になっていないんだよ!王子はエドの背中に向けて叫んだ。


もっと知りたいのならついてきたらいい。王子の方など振り返りもせずにエドは言った。


「なんなんだよ…!」


ジョウモウカルタ。力合わせる200万。魔王の転送魔法に干渉するほどの力を秘めたグンマー。そして…自らを賢者と言う金髪の男、エド・丸野。


処理不可能な情報量にパンクしそうな頭を乱暴に掻いた。

どうせここにいても王子に行く宛など無かった。グンマーから脱出する方法を賢者であるエドがなにか知っているかもしれない。罠であればまたその時に考えるしかない。

王子は意を決してエドの背中を追うために階段を駆け降りた。


◇◆◇◆


エドに連れられてきたのは客が全くいない酒場だった。労働意欲に欠けた店員の案内で客席へと案内される。もう夜になるというのに客のいない酒場はなんのために開いているのか分からないほどだった。そもそもここへ向かう途中、人間には誰1人としてすれ違わなかった。グンマーの人間は一体どこにいるというのだろうか。


「とりあえず生2つ」


で、いいよね?エドが長い2本の指をひらひらとさせて問う。そんなこと聞かれても生2つがなんのことか分からない。


そう、王子はこの日初めて酒場に足を踏み入れたのだ。


魔王を支えるべく日々勉学に邁進しあらゆるエネルギーを魔王軍のために注いできた…魔界大学では主席で入学しサークルやらインカレやらそんなものとは無縁で過ごしてきたし、魔王の一人息子ということで魔王軍に就職してからは同期からも微妙に距離を置かれた。


「…いいだろう」


王子は腕を組んだ。

生2つがなんであろうと今のオレには受け入れるしか術がないのだ。


「はーい。生2つはいりまーす」


あざまる水産!!!と、奥の方から大きな掛け声が聞こえて王子はすこしビクッとした。


「いや〜なんか変な感じだよね。向こうの世界だとボクたちって戦う宿命じゃん?これがこうして膝付き合わせるなんてさ」

「お前が話を聞きたいなら着いてこいと言ったからだ」

「あはは〜だって、立ち話もなんじゃん?」


呑気に両手を広げて笑うエドを見ていると段々気が緩みそうになるのを王子は我慢した。


は〜い、お待たせしっました〜。

店員は片手に小さな器、そしてもう片手に2つの透明なジョッキ。その中は金色の液体が満たされており、シュワシュワと弾ける泡を見ていると不思議と喉の渇きを誘った。

それぞれの目の前に1つずつジョッキが置かれると「お通しでっす〜」ともう片方の手が器用に持っていた器が「お通しのモツ煮でっす〜」と、置かれた。

その器の中には一見グロテクスな肉片と人参、ごぼう…そしてこんにゃくがあった。


「ま〜なにはともあれ、我々の歴史的な出会いを祝して〜」


カンパーイ!


陽気な男の掛け声と共に酒盛りがスタートしたのだった。

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魔界のプリンスは恋なんてしないっ! あじのこ @ijinoko

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