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五街区でバイトを始めてすぐの頃、同い年のカズという客と仲良くなり一緒に飲みに行くことがあった(カズも僕のタイプでセックスもしたけど、なんだか肌が合わず普通の遊び友達になった)。そんなある日、二人でボギーに行くと早い時間にもかかわらず客がいっぱいで、カウンターの中で和馬が忙しく働いていた。和馬とは一カ月前に一度会っただけだったが、意外にも僕のことを覚えていてくれた。しかも僕が五街区でバイトしだしたことも耳にしていたらしく話が弾み、前回の不愛想なイメージとは違って凄く良い子に思えた。
その日は一晩中あちこちの店をカズと飲みまわり、朝方になって再度ボギーに戻った。もう客は誰もいなかったが、早い時間から大賑わいだったこともありマスターはかなり酔っぱらっていた。もちろん僕らも酔っていた。
カズの横にマスター、僕の横に和馬という並びで座っていたが、そのうちカズとマスターがいちゃいちゃしだしたので、酔いにまかせて僕も和馬にちょっかいを出してしまった。和馬は酔っていなかったけど抵抗もせず、もはやおさわりバーと化していた。
マスターの「そろそろ閉める」という言葉を合図に、僕とカズがカウンターに座ったままの状態で、二人は店を片付けだした。他のお店の閉店作業を見ながら「なるほど、この店はこういう手順で片付けるんだ」と素に戻る僕がいた。
「和馬を連れて帰ってええよ」
そろそろ締め作業が終わりそうな頃にマスターがそんなことを言ってきたが、冗談だと思った僕はそれを軽く受け流し、カズにそろそろ帰ろうかと声をかけた。
「フグちゃん帰っちゃうの?」
「え?う、うん」
まさかの和馬の言葉に僕は戸惑いながら、ひとまず四人で店を出て駅の方へ向かった。大通りを渡ったところでふいにマスターはタクシーを停め、乗り込みながらカズについて来るか来ないかを尋ねた。
「え~?どうしようかなぁ」
そういいながらもカズはさっさとタクシーに乗り、マスターと一緒に行ってしまった。一応ピュアな素振りは見せていたが、あれだけマスターといちゃいちゃしていた彼が誘いに乗らないはずがないことは分かっていた。
こうなると僕も和馬を誘うことへのハードルが低くなる。
「うちに来る…?」
「エッチなしなら行くー」
セックスはしないという前提ではあるが、和馬はあっさりとOKした。部屋に着いた僕らは二人でベッドの布団に包まり、あっという間に眠りについた。
昼過ぎに目が覚めたとき、和馬は僕に抱きつきながら眠っていた。ドキドキしながら僕も抱きしめ返すと、和馬も目が覚めたようで僕を抱きしめる手に力が入った。その気になった僕は和馬に覆いかぶさりキスをした。和馬は全然抵抗しなかったので僕は彼のTシャツの中に手を入れ、引き締まった躰を愛撫した。シャワーを浴びていなかったのでそれ以上は拒否され、この時は抜き合い程度で終えた。
僕らはしばらくのあいだ抱き合ったままでいた。
「なんでこんなんしてくれたん?」
「フグちゃんのこと嫌いじゃないから。それに、なんかフグちゃんと一緒にいると落ち着くねんなぁ」
和馬の曖昧な返答に、僕は複雑な気持ちになっていた。セックスといっても軽くしかしていないのに、精神的には仁さんとの時よりもはるかに気持ちが高ぶっていたからだ。すでにこの時、和馬に惹かれている自分に気づいていた。
それから僕らはデリバリーのピザを食べながらお互いの話をした。和馬には彼氏がいることが分かり「じゃあなぜ?」とも思ったけども、それを聞くのは野暮であることを承知していた。
日が暮れてきて、僕は五街区のバイトに行く時間になった。一緒に電車に乗り、和馬は途中の駅で乗り換えて自宅に帰っていった。五街区で客の相手をしながら、僕は和馬のことばかり考えていた。
その後も僕はしばしば和馬に会いにボギーに行ったけど、和馬が気になっている素振りは見せず、店の中ではただの友達として振る舞った。もちろん和馬のほうも僕の部屋でのことには一切触れなかった。あの時はあの時、そういうものだ。
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