ピエロ
深夜まひる
第1話
生まれたころから一緒の幼馴染のユキちゃん。
「はぁーい、ユキちゃん。こんなところでどうしたの? 泣きたいならこのピエロが泣くまで笑わせてあげるよ」
あの日、彼女のために僕はピエロになった。
☆☆☆
「最近あの男、返事が遅くて心配なんだよね。何か困ってるんじゃないかって。ねぇクロちゃん、聞いてる?」
「聞いてるよ。僕はピエロだからね。いつ何時もお客さんの声は逃さないよ」
「流石ピエロ! 頼りになるね。それで安田のことなんだけどさ」
安田、というのは高校二年生になって僕らと同じクラスになったモテ男だ。
僕のように道化ではないが、みんなを笑顔にする最高の男だ。
ユキちゃんは最近安田と良い仲のようで、いつもピエロである僕に彼とのことを相談しに来ている。
「それはずばり、照れているんじゃないかな? 安田君もモテモテとはいえ素人の男だからね。可愛いユキちゃんに照れちゃったのさ」
こういうといつものユキちゃんだと笑って引き下がってくれていた。
だが、今日の彼女は一味違った。
「いつもありがとねクロちゃん」
彼女は僕との距離を一気に縮めて僕を力いっぱい抱きしめる。
女の子にしては背の高い彼女の顔がすぐ目の前にあった。
そして体だけではなく、顔の距離もゼロになった。
☆☆☆
それから、僕とユキちゃんの関係はそのまま、むしろユキちゃんと安田の仲はうまくいった。
付き合ったとは聞かないがもう秒読みだろう。
結局僕はピエロだったってことさ。
「ねえ、ユキちゃん。僕をピエロにはしないでね」
僕は部屋でひとりごちた。
☆☆☆
いつも話をする近所の公園で、いつものようにユキちゃんと話をしていた。
「もうすぐクリスマスだけど、安田君には何をプレゼントすれば……」
「ユキちゃん」
もう僕は限界だった。
僕は思いを告げるために強引に二度目のキスをした。
「クロちゃん、私さ、クロちゃんのことずっと好きだったよ。10年前にお母さんが死んで、ピエロなんかになって慰めてくれて。だからさ……」
それはピエロとユキちゃんのサヨナラのキスだった。
ピエロ 深夜まひる @shin-ya-mahiru
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