第2話 お着替えの始まり

「それじゃあ私と女友達になってよ、そんなに興味があるなら存分に女装させてあげる」


家に帰りシャワーを浴びている間でも頭に残っているのは夕方の出来事であった。教室にたまたま置いてあった女子の制服であるスカート、それがまさか自分の机の上に置いてあって彼…前田薫は好奇心から手に取って足に通していった。あのヒラヒラとした感触はまだ微かに残っているものの、それ以上に心の中で渦巻いているのが持ち主である女子高生、宮川遥に見られていたという羞恥心であった。

「まさか見られていたなんて…はぁ…本当にどうすればいいんだろう……」

冷たく鋭い視線に加えてクスクスと笑みを浮かべた表情。軽蔑をしているのは目線を合わせ見ればすぐに分かるほどで気がつけば写真も撮られていたのである。

「女友達って俺は男なのに…あれの意味ってどういうことなんだろう」

熱いシャワーを浴び終えてタオルで水気を拭き取っていきながら頭の中で色々な考察を浮かばせる。多少はすっきりとした脳内で彼女が言っていた言葉を思い返していくが彼女は本当に言葉通りのことをさせるのかあまり信じられない。

「女装って…そんなに女っぽいのかな?まぁ、確かに男子の中では華奢な方ではあるけれど」

脱衣所にある鏡を見る。暖かいシャワーを浴びていて血流が良くなっているためか、いつもより良い顔立ちをしているように見える。しかし、改めてみると男として残念で貧相な体つきであった。運動は苦手でゲームなりバイトをする日々を送っているためか二の腕や足は白く細い。男らしいホルモンとして昨今、よく目にするテストステロンが少なそうな幼くやや中性的な容姿、確かにこれであれば女装というのもよく似合うかもしれない。

「でも、宮川さんって女友達になってほしい…なんて言っていたような…はぁ…あまり考えないようにしよう…って言っても、写真は撮られているわけだしな」

例え目立たないインキャであったとしても、クラスメイトの女子が使っているスカートを履いている姿を拡散されれば平穏な学生生活は諦めなければいけない。

スマホを見れば個人通知は特に届いておらず、まとめニュースや他媒体のSNSの通知が届いているのみであり彼は不安を抱きながらもゆっくりと目を瞑っていき、次の日を迎えたのであった。


『今日の放課後、少し残ってくれない?場所は女子更衣室の前に集合ね?』


普段よりも眠れない一夜を過ごし、いつもと同じ時間帯にセットした目覚まし時計にて起床していく。朝6時30分…いつもより瞼が重たいが起床の時間は体に染み付いている。彼はそのままベットから起き上がったのち枕元のスマホを手に取ったのであった。

「宮川さんからだ…え、嘘でしょ…本当にやるっていうのか…?」

目を覚ましてスマホを見ればどうやら深夜の時間帯に宮川遥から1通のメッセージが届いていた。短文で1通のメッセージ、だがそれは前田の目を一瞬で冷ませるほどの強力な効果を持っており彼は何度もスマホのディスプレイに写っている文字を見返していったのであった。

彼女が放課後を選んでいるのは今がもう夏休みを目前としており、更衣室などもあまり使われなくなるからであった。


朝からテンションが上がらない昨夜のメッセージに気落ちしながらも登校する身支度を始めていく。履き慣れているはずの制服のズボンに足を通していくと何故か、前日のスカートの感触が蘇ってくる。あの時のヒラヒラとした感触…思い返すだけでもはずかしくなってくるため、姿見を前に頭を振っていき何とか平常心のままで重たい足取りのまま学校へ登校していったのだった。


「やっほ〜ちゃんときてくれたんだ、来なかったらどうしようって思っていたんだけど」

予定があると1日が早く過ぎ去っていくのが不思議であるなと思っていたが今日ばかりは、時計の秒針が止まる…いや、遡ってくれないかとすら思っていた。

「よ、呼んだのはそっちの方でしょ……」

「あっはは、そうかも。でもちゃん返信は返してよね〜見ているのか分からないからさ」

既読マークがあるというのに…いや、彼女はそれらを理解した上で揶揄うのを目的としているのだろう。

「ま、いっか。早くお着替えしないと他の人が来ちゃうから早めに済ませちゃおう」

スクールバックとは別に手に持っていたトートバックを更衣室のロッカーに置く。中身を取り出していけば彼女が着用しているのと同じ…チェック柄のスカートと女子の制服を手渡していった


「……本当に着替えないといけない?」

「う〜ん、私的には着替えたほうがいいと思うよ?だって、スカートを履いている画像は拡散されたくないでしょ?」

”あくまで強制ではない”ことを強調させるが、握られた弱みなどを考慮しても薫が断れる要素は何1つなかった。もし、ここで首を横にふればそれこそ全てが終わる…そう思えば選択肢は1つしかない。

「は、恥ずかしいから…その、向こうを向いててほしい…」

「はいはい、それじゃあ逃げずにお着替えしてね〜」


覚悟を決めるかの如く深い息を吐き出していく。シャツにズボンなどを脱いでいって綺麗に畳み、その上に最後の1枚であるボクサーパンツを置いた

(は、恥ずかしい…けれど、早く、着替えを終わらせないと…)

袋に入っていたのはこれまた真っ赤なブラジャーとショーツであった。バストアップ効果も期待できるCカップ程度のサテン生地に黒のフリルがあしらわれているショーツとブラジャーを履いていく。今まで着用したことのないツルツルとした感触、そしてブラジャーの締め付け具合に顔はみるみると赤くなっていった。

(くっ、チンチンが上手く入っていかない…)

興奮のあまり勃起した男性器によってショーツはかなり不自然な形となっていった。見ているだけでも恥ずかしいその姿はとても見るに堪えず彼はそのままスカートとシャツに手を伸ばしていったのだった。


「き、着替え終わったよ……」

「……へぇ〜これはこれは。まだウィッグもお化粧もしていないのに女の子みたいだね〜」


白シャツに水色のチェックスカート。筋トレなど一切していないのが丸わかりな細く白い生足となっており、遥と同じぐらいのスカート丈をヒラヒラと翻していた。そして腰より上の部分に注目していけば紺色をしたナツ向けのスクールベストに男性ではあり得ない胸元の膨らみが確認でき、ブラジャーの形が浮かび上がっていたのであった。


「いいじゃ〜ん、とっても可愛いよ。とりあえずお化粧とかする前に写真を撮ってもいいかな?」

「い、いやっ!それはその……恥ずかしいからやめてほしい……」

「それじゃあ、先にお化粧とウィッグを被ってからにしよっか。お外に出てお買い物もするわけだし…こっちを早めにやったほうが良いかもしれないし」


彼女の言葉に何か引っ掛かるものがあった。今日、この場に来て初めて聞いたセリフ…


「え…外?お、お買い物って…」

「ん?あー言っていなかったね。せっかく女の子になるんだったら自分用のランジェリーとかコスメも欲しいでしょ?今日はそれを買いに行こうと思ってさ」


断るタイミングもなく隅に置かれたパイプ椅子に腰掛けると彼女は自身が持っている化粧用のポーチを広げていった。

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着せ替え人形として始まった青年の日々 かきこき大郎 @kakikok-taro

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