着せ替え人形として始まった青年の日々

かきこき大郎

第1話 そこにあった女子制服

隠キャ男子にとって女子の私物に触れることは一生ないと思っていた。それだけに興味が湧いてしまって机の上に置いてあった女子の制服に男子高校生の前田薫は思わず、手で触れてまじまじと観察を行っていたのである。

「どうして俺の机の上に置いてあるんだ…」

季節はもうすぐ夏休みという時期であり、制服を脱ぐようなイベントはないはず…体育祭に文化祭の設備作りなどで汚れないように制服を脱ぐことはあるのだが、白シャツに水色のチャックスカートといういわば女子制服が丸々置いてあるというのはどうしても理解することができなかった。加えて置いてあったのは自身の机の上なのである。放課後という時間帯、昇降口で靴を履き替えてあとは自転車に乗って帰るだけというのにふとカバンの中を見ればスマホがないことに気がついて再び戻ってきたのであった。

時間にして30分程度のことだろう、その間に女子生徒の誰かが制服を脱いでここに置いて何処かにいなくなってしまったのである。

「……匂いはどれも同じ感じだ、っていうか本当に女子の制服っていい匂いがするんだな」

一人っ子の家庭のため年頃の女子が使うシャンプーなどは家に置いていない。だが、学校生活を送れば自然と女子がつける香水などの甘いフレグランスの香りを嗅ぐ機会は多かった。そしてそれは自然と体臭となっていって制服などにも染み込んでおり、彼は誰もいない教室にて衣服を鼻に当てていたのだ。

スカートに薄手の白シャツ…鼻に当てているのは女子生徒らの身体にある秘部、すなわち胸やお尻、そして女性器などにあたる部分であった。

少しばかりひんやりとした冷たい感触が手に伝わる。これは汗だろうか、それとも何か飲み物でもこぼしたのだろうか…そんな形跡がある持ち主はいまだに不明のスカートの匂いを彼はただ鼻に当てて嗅いでいたのであった


「まぁ、こんなところを嗅いだところでブラジャーなり下着などがあるからちゃんと分かるわけはないんだけど……」

「スカートって実際に履いたらどんな感じになるのかな……?」

まじまじと手に持って眺めていたスカート…前から少しばかり興味はあった、なぜ男子生徒はズボン1択なのか。女子生徒は、ズボンかスカートのどちらかを履けるということに羨ましいという話を言うつもりはなかったのだが、やはり今の時期、蒸し暑い日々が続く中で彼女たちのような短いスカートで足を露出している姿というのは1つ…羨ましさを感じさせていたのである。


「ちょっとぐらい……足を通すだけだから……」


隠キャなのに大した胆力だ、と我ながら思ってしまう。薫は一度、廊下に出て誰もいないことを確認したのちゆっくりとスカートに足を通していった。

(すごいヒラヒラだ、ズボンみたいに股の部分がないからすごく歩きやすいかも…でも、ちょっと恥ずかしいな…)

ほんのりと顔が赤くなるのが伝わってくるが、彼はそのままウエストの部分でウエストのホックとファスナーを上げていきおもむろにズボンを下ろしていった。

運動部にも所属しておらずバイトぐらいしかやっていないことで筋肉は最小限となった真っ白な生足。それはきっと女子生徒よりも色白に映って見えた。体毛も薄く、外から見れば女子生徒のような生足に男としては恥ずかしくて仕方がないが思いのほか、似合っているのではないだろうか。


「女子のスカートってこんな短いんだ…っていうか、そのスカートってすごく落ち着かない…」


これで女子高生たちはよく普通に歩けるなと感心してしまう。実際は中にショートパンツなどを履くのだろうが短いスカートは少し風が吹けば捲り上がっていくのではと思うほどに初めて履いた感触は不快感というよりも心許ない感覚が勝っていたのだった。


「ウエストも全然、余裕だし…俺ってもしかしたら女装の才能があるのかもしれないな…」


「かもね〜でも、履きたんだったら許可を取ってくれないかな?」


その場で腰を振ったりしていき翻るスカートの感触を味わっていた薫の口からぼそっと溢れた言葉に反応があった。一瞬で動きは止まり背中からは多量の汗が流れる…声の主は女子生徒であり、あまり接点を持たないようにしていた人物の声をしていたのだった

「み、宮川さん……」


「んっ?どうしたの?っていうか、そのスカート私の何だけどな〜…どうして女子のスカートを履いているの?」

「………」

「お〜い、聞いてる?もしも〜し」


ウェーブのかかった茶色のセミロングの髪の毛に体のラインは同年代の女子よりもふくよかで胸元には大きな胸を携えている。耳には銀色のピアスが揺れる髪の毛からチラチラと確認できる中で彼女、宮川遥は何故か体操服を着用していたのだ。

「お茶をこぼしちゃって着替えたついでに自販機に行ってたら…まさかクラスの隠キャ男子が釣れるなんてね〜」

「宮川さん…そ、その、これは違うんだ…た、たまたま俺の机に置いてあって…」

「ふ〜ん、それじゃあ前田くんは自分の机の上にあるものであれば自分のものにしちゃうんだ。それじゃあ、今度は下着でも置いておこうかな?」

クスクスと笑みを浮かべる彼女。いつの間にか手にはスマホを持っており、前田の顔はみるみると青ざめていく。

「写真、撮ったから。下手な言い訳はしないほうがいいよ?」

「ご、ごめんなさいっ……そ、その、女子の制服なんて普段見ないから…きょ、興味が湧いて…」


小学生のような言い訳しか考え付かない。だが、今は誠意を見せて謝るしか方法がなかった。


「そう。それじゃあ許してあげる代わりに…私と女友達になってよ。そんなに興味があるなら存分に女装させてあげる」


そうして始まった宮川遥からの強制女装に彼はただ…従う日々を送るのである

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