青の章 幕間「孤独な獣の願い」
まず、感じられたのは飢え。
ただただ、渇いていた。
生への渇望。
それだけを胸に抱き、孤独な獣は荒野を歩き続ける。
「・・・」
獣は何も言わず、ただ一匹でいた。
決して、群れからはぐれたわけではない。
捨てたのだ。
彼の方から先に。
他の個体よりも体が大きいというそれだけの理由で、群れから孤立しつつあった獣は自らの爪牙で同族を滅ぼした。
恐れも後悔もない、ただ己が生きるために。
そう願い、そして自らの手でそれを掴み取ったのだ。
「・・・」
ここに至るまで様々な障害を踏み潰してきた。
猿の群れがいた集落、あるいは人間。
耳の長い猿がいた森、あるいはエルフ。
小さな猿がいた洞穴、あるいはゴブリン。
それら似たような存在をいくついくつも踏み潰し、滅ぼしてきた。
ただ、少し前。
奇妙な形をした獣。
鋼鉄の鋼の如き表皮に、目にも止まらぬ速さで爆発を伴った石くれ撃ち出してくる大きな亀のようなもの。
───見るものが見れば、それが戦車であると一見して理解できたかもしれない。
ただ、それは本来、この時代に存在し得ぬ遺物。
外から来た侵略者たちの兵器だったのだが・・・
「・・・」
それと対面した時であっても彼は変わらなかった。
いつもと同じように、変わらぬ調子でその侵略者を喰らい、滅ぼしたのだ。
ただ、それからだろうか。
体が少し重たく、硬くなったような。
実際、見た目は元々、白い狼のような
「・・・」
獣にとってその変化は煩わしいものではあったが、すぐに慣れてしまった。
それからだ。
猿の群れや同族以外にも
「・・・」
孤独な獣は止まらない。
彼にとっての願い。
それが果たされるまでは。
生への渇望。
ただ、生きたいという願い。
無垢な子供のように純粋で混じりけのない、本能から来る衝動。
「・・・」
嗚呼、しかし。
猿の群れたちにとって・・・否、あらゆる生命にとって不幸なことがひとつ。
彼、孤独な獣にとっての生存とは。
己以外のすべての生命の抹殺に他ならない。
例外はない。
僅かな慈悲すら残さず、彼は全て踏み潰し、蹂躙してきたのだ。
「・・・」
彼には語る言葉も必要ない。
ただ、蹂躙し、己の渇望のために生き続ける。
───
無慈悲な黒鉄の戦車のごとく。
彼が過ぎ去った後には、爪牙の痕跡が
「・・・」
見据える鋭い眼光の先にはまだ足を踏み入れたことのない森がある。
気付けば本能がプログラムされた機械のように四足を駆けさせ、森へと向かって走らせていた・・・
Lost World. フェイジ @feizi
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