青の章 6話目「ここに至るまで」

 森の中を歩き続けている。

 それもで、さらには二人っきりで。

 どこまでもおかしな様相に目をそらしてしまいたくなる。

 いや、実際にはすでに目をそらしてはいるのだが。


「・・・」


 そして道中、互いに言葉を交わすこともない。

 ないのだが・・・


『いやはや服を着ていないことがおかしなこととは思わなかったよ。特別、そんなものが必要だと感じなかったものでねー』


 頭の中では知らぬ女性の声が響いている。

 それがおそらく目の前の人物からであろうと予測はついたが、これが奇妙な感覚であることは否めない。

 彼女曰く、自分の頭の中とやら覗き見て、をしてくれているらしい。

 なんにせよ、言葉が通じるのはありがたかった。

 それは本心だ。

 

『・・・ふむ』


 先頭を歩き続けていた彼女が足を止める。

 一拍遅れて自分も足を止める。


『ここまでしばらく、君の頭の中を覗いていたのだが』

『どうもに巻き込まれているみたいだね』


 まぁ確かにそうだ。

 すでにとんでもない臨死体験をしたのだ。

 厄介に過ぎる事態には巻き込まれているのだろうとは思う。


『あー・・・まぁそれもそうだろうが、それ以前の話というかな』

。気づいたら空から落ちてきていたというくだりの前』


 彼女は真っすぐとこちらを見つめて言葉を紡ぐ。

 核心的なことを伝えんとして。


『見知らぬ長髪の男と見知らぬ空間にて、茶を嗜みながら話をした事』

『君はそれを忘れてしまっている。どういうことか、訳もわからずにね』


 ・・・だろうか。

 自分では身に覚えのない話だが。

 言われてみると朧気ではあるが、そういうような時間を過ごしていたようにも思える。

 ただ、状況も状況。

 仮にそんなことがあったとして、その直後にあの臨死体験だ。

 命の危機が迫っていた以上、忘れていても不思議ではない気がする。


『ふむ?覚えてはいないようだが、まるっきり心当たりがないわけでもなさそうだな』

『もっとも、その見知らぬ男も君に、あまり多くのことを伝えたりはしなかったようだが』

『しかし・・・ふむ』


 そうして彼女は目を閉じ、思案するように眉を傾けている。


、そしてか』


 はて、なんのことだろうか。


『君と見知らぬ男との会話のくだりで出てきた重要な要素らしい』


 そんなことを話していたのだろうか?

 まぁでも確かに、まったく耳なじみのない言葉でもないような気もする。


『私もがないわけでもない。ないが・・・』

『それがわかったところでどうだという話にはなる』

をみつけたとて、もうできることは何も・・・』


 そう呟くと同時、森の奥から地響きが聞こえ出した。


「!」


 それまで穏やかに流れていた森の中の時間が、凍りついたように止まり、鳥たちが紡いでいた歌声も悲鳴へと変わっていた。


『・・・場所を一度移そう。が来るようだ』


 一体、何が来るというのか・・・


『・・・最悪の存在だ。あらゆるものを喰らい、破滅をもたらす獣』

頂点捕食者プレデターだ』

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