第4話 BAR KING

「最近の岸くん。ご機嫌だよね。」

紫音が言った。

「うん、由紀ちゃんから誕生日プレゼントもらったんだって。しかもラブレターまで。」

「え?そうなの?それは、良かった。」

紫音は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。


俺は、境田迅。本当はこのシリーズの語り部は俺なんだけどね。

今回は岸くんの誕生日ということで譲ってみたけどさ。

どうやら、岸くんは想い人の堀田由紀ちゃんと思いが通じたらしく、最近は超ご機嫌でいつもニヤニヤしている。


カランカラーン♪


昭和な鈴の音が聞こえた後、岸くんが入店してきた。

「紫音、迅!今日も元気か?」

今日も岸くんは超ご機嫌だ。

「岸くんは今日も幸せそうですねぇ。」

そういう俺を見て岸くんが満面の笑みでハグを求めてきた。

俺はそれを寸での所でかわした。

「せっかく俺の幸せを分けてあげようと思ったのに。」

そんなことを言いながらも岸くんはにやにやしている。

「で?由紀ちゃんには連絡とったの?今度いつ帰ってくるの?」

俺は岸くんに聞いてみた。

「うん、まだ連絡とってないんだ。堀田さんは多分年内に一度帰ってくるみたいなことを言ってたけど、なんか照れくさくてなかなか突っ込んだ話できないんだよな。堀田さんにもさ。」

「まるで小学生だな。」

紫音があきれ顔で突っ込むけど、岸くんは相変わらずのデレデレ顔だ。

本当に幸せそうだけど、こんな調子で仕事は大丈夫なんだろうかと心配になってしまう。


紫音はその様子を見ながら、ビールを入れて岸くんの前に置いた。

「そういえば、この前の北山さんの話はどうなったの?」

「あの堀田さんが探っている人物についてって話だろ?俺も気になっていたんだけど。」

俺と紫音がそう聞くと、急に岸くんの顔が神妙になった。

「北山さんの話を聞いて、さすがに気になって調べてみたんだけど、権藤義之っていう代議士の事らしいんだ。

別に黒い噂なんかはないんだよね。

以前は義父の秘書として義父の下で勉強していたらしい。その義父が心筋梗塞で倒れたからその地盤を引き継ぐことになったんだけど、精力的に有権者の元を訪れたりして意見を聞いて、評判もいい。

義父は権藤 辰巳って言って穏健派の人望の厚い代議士だったんだ。

その義父にもあまり悪い噂なんかは聞かない。

で、本人は若手議員の中でも、政策なんかもしっかり打ち出したりして期待の星らしいんだけど。

調べていたら、ちょっと気になることが出てきてな。」

岸くんがちょっと顔を曇らせて行った。

「気になること?」

紫音がその話の続きを促した。

「ほら、北山さん、お前たちにも関係があるって言ってただろ?」

「あぁ、そんなことも言ってたよね。」俺が答えた。

「うん。ほら、覚えてるか?あの解離性同一性障害の女性の事件。あの女性がいた保護施設、アジサイ園に寄付をしているんだよ。というか、開園当初からかなり関わっているようで、これは義父とは関係ないところでの活動の様なんだわ。

それ自体は何の問題もないし、疑わしいこともないんだけど、北山さんの話とかあの事件の事とか考えてたら、ちょっとわからなくなってしまって。あの園長とも色々関係がありそうなんだよな。」

「ふーん。なるほど。そうなんだな。」

紫音が何か考えるような顔をしてそう言った。

「まぁ、まだ堀田さんには何も言ってないし、もう少し調べてみようとは思うから。」

そう言った岸くんに紫音が頷いた。


そう、俺たちはまだ知らなかった。この件がこんなにも大きな事件の序章にすぎなかったなんて。この人物がこの後、俺たちにこんなに関りがあったなんて。そして、こんなにも悲しい過去があったなんて。

それは、また別の話。

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