第3話 手紙

サプライズバースデイの帰りに堀田さんが俺に声をかけてきた。

「岸。これ。」

堀田さんが手紙を差し出してきた。

「え?堀田さん。ちょっと気持ち悪いですよ。」

「馬鹿だな。俺からの手紙なわけないだろう。」

「じゃ、誰なんですか?怖いですって。」

堀田さんは少し不貞腐れたような顔をしたと思ったら、

「これは、由紀からの手紙だよ。この前、お前に渡してくれと送られてきたんだよ。そしてこれが、由紀からのお前へのプレゼントだ。あいつ、お前の誕生日知ってたんだな。」

「え、由紀さんから!!まさか、堀田さん読んでないですよね?」

と俺が言うと、堀田さんの顔が鬼瓦のようになって、怒った。

「お前、俺がそんなことするわけないだろ!!」


俺は、有頂天になっていたんだろう。そのプレゼントと手紙をその場で開けようとしたが、

「おまえ、そういうものは親の前で開けるもんじゃない!!家に帰ってからゆっくり開けろ。まったく、俺は帰るぞ。じゃぁ、また明日な。」

そう言って、堀田さんは帰っていった。


俺は少し呆然としながら、今自分の手の中にあるものを見て、さっきの事は夢ではなかったんだと改めて確認する。

由紀ちゃんがアメリカにわたってから、由紀ちゃんの事を忘れようと仕事に打ち込んだりしたけれど、やっぱり諦めきけれずに由紀ちゃんの帰りを待っていようと思った事もあった。

今でも、堀田さんと由紀ちゃんと三人で食事をする夢を見る。

やっぱり、なんだかんだ寂しい自分に酔っているんだと思う。

別に、俺は由紀ちゃんに振られたわけじゃないんだって、ただアメリカに行く由紀ちゃんの負担になるんじゃないかと思ったから、思いを告げなかっただけなんだって、自分に言い訳することだってあった。

俺にとって、由紀ちゃんは妹のような存在で由紀ちゃんだって俺の事は兄の様な接し方だったのだから。

でも、今俺の手の中には由紀ちゃんからの手紙とプレゼントがある。

この中身が何なのかなんて、まだわからないけれどとにかく由紀ちゃんからの贈り物だってだけでこんなに嬉しい。

こんな気持ちになったのなんて、ほんとにいつぶりだろうか?


そんなことを考えながら俺は多分最大級にニヤニヤしながら帰り道を急いだ。

家に帰って、まず手紙を開けてみた。

シンプルな水色の便せんには、型押しで貝殻の模様が入っている。

由紀ちゃんらしい優しいデザインだな。

その手紙の中身を俺はドキドキしながら読んだ。


親愛なる 岸 悠馬 様


お元気ですか?私はアメリカの研修が始まり、とても忙しくなってきました。こちらに来てから、様々な研修を受けとても充実した日々を過ごしています。

アメリカに起つ日に、岸さんが見送りに来てくれましたね。

本当は、あの日会いたくなかったんです。決心がくじけそうだったから。

アメリカに行けなくなるんじゃないかって。

でも、あの日あなたが言ってくれた言葉がとても心に響いて、アメリカで頑張ろうとおもえたんです。

「由紀ちゃんならば 諦めずに誰かの幸せみつけてくれる

俺も、この日本で、何ができるかわからないけど、何かやるまでとまれないよ。」

あの時、本当は岸さんに「行かないでほしい。俺のそばにいてほしい」そう言ってほしかった。

でも、あなたがあの言葉を言ってくれた時、私はこの人にきちんと正面向いて笑顔でいられる人になろうって思った。

胸を張ってあなたと対等に話ができる人であろうと思ったんです。

あなたがしっかりと背中を押してくれたから、今の私がこのアメリカにいます。


岸さん。私はアメリカに来てあなたを思わない日はありません。

アメリカに来て仲のいい友達もできました。毎日、大変な研修の中でも楽しい毎日です。

でも、一人の時間に思い出すのはあなたの優しい声や楽しそうな笑顔です。

兄のように慕っていたはずの人なのに、知らない間にあなたの事を一人の男性として思い慕っていたのです。

本当は、この思いは私の心の奥底にしまっておこうと思っていました。

でも、この前北山さんがアメリカに来られた時に、きちんとあなたに思いを伝えないとだめだと叱られました。

研修も仕事ももちろん大事だが、なにより自分の人生を大事にしろと言われました。

周りの同じ研修生も仕事も恋愛もきちんと充実しているのを見て、それもそうだと思うようになったのです。


岸さん。私はあなたの事が好きです。

この思いを告げることは本当に迷いました。もしかしたら、あなたの負担になってしまうかもしれない。それ以上に、もしかしたらただの私の思い違いなのかもしれない。

でも、あなたにこの思いを告げることにしました。


もし、私の事をあなたも思ってもらえるのなら日本に帰った時にもう一度あなたへの想いをぶつけたいと思います。


そして、岸さん。お誕生日おめでとうございます。

本当だったら一緒にお祝いしたかったな。でもきっとあなたの周りには賑やかで優しい人たちがあなたを喜ばすために、いっぱいお祝いしてくれてるんでしょうね。

私からは一緒にプレゼントを贈りました。父から受け取っていただけたでしょうか。気に入ってくれると嬉しいな。

あなたにとって、この一年も楽しくて幸せな一年になりますように。


         アメリカの地より愛をこめて

                    由紀より。


手紙を閉じて、俺はなぜか涙が流れていることに気が付いた。

嬉しい、という思いもそうだったが、由紀ちゃんが伝えてくれた想いが幸せすぎて、そしてこの半年ほどどれだけ由紀ちゃんにあいたかったのかという思いが溢れてきたのだろうか、しばらく手紙を抱きしめてむせび泣いていた。


由紀ちゃんからのプレゼントは、ネクタイピンだった。

シンプルなデザインでピンの先に紫のアメジストがついている。

裏にはKCの刻印がある。

そういえば、由紀ちゃんが以前言っていたことがあった。

「私ね。一番大切な人には身に着けるものをプレゼントするの。たとえばネクタイピンとか、ボールペンとか?

で、あった時にそれを身に着けてくれていたら、すごく嬉しいじゃない?」

俺にタイピンをプレゼントしてくれた由紀ちゃんの想いが、めちゃくちゃ届いて俺は本当に幸せな男だと思った。


俺は、由紀ちゃんの想いを受け取って、幸せな気持ちでその夜は眠りについた。








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