第2話 9月29日

先日の北山管理官の話をずっと考えていた。

堀田さん一人で現役代議士の事を調べている。

しかも、公安に目をつけられているって、どういうことなのか。

その権藤という人物はいったいどういう人物なのか。

しかも紫音や迅にも関係しているという。

北山さんにあんな話の持ちかけられ方をしたら、そりゃ気になるってもんで。


そんなことを考えていたら、堀田さんがこっちに向かってくるのが見えた。

「おい、岸。お前何ぼんやりしてるんだよ。」

「あ、堀田さん。おはようございます。」

「おまえさ、人の顔をじっと見て、気持ち悪いんだよ。なんか言いたいことあるのか?」

俺、考え事して無意識に堀田さんをずっと見てたんだ。やべぇ。

「あ、いえ。何もないっすよ。」

本当になんもないって顔で答えたけど、信じてもらえてないだろうな。

堀田さんは俺の顔を不審な顔で見てくる。


「まぁいいや。お前がおかしいのは今に始まったわけじゃないしな。

そうだ、岸。今日は仕事終わりに呑みに行こう。久しぶりにKINGなんてのはどうだ?」

「いいですね。この前の六花荘でのお礼もしたいですし、行きましょうか。」

俺は、これでいったん話が終わったことに少しほっとした。


終業時間になり、俺と堀田さんはKINGへ向かった。

ただ、いつもなら腹ごしらえをして向かうところを今日はなぜかKINGに直行した。

KINGに着いてドアを開ける。

カランカラーン♪

昭和の喫茶店の様な音がする。これはどうやら紫音の趣味らしい。

だが、店内は真っ暗でシンとしている。

「堀田さん、もしかして今日って休みなんじゃないですか?」

俺が堀田さんに声をかけたら、


「ハッピーバースデー!!岸くん!!」


迅と紫音の大きな声が聞こえた。それと同時に部屋の照明がついて目をしばたいていると、大きなクラッカーの音が響いた。

「ばーーーーん!!」


「え?!!!!!どういう事????」


「おまえ、今日誕生日なの忘れてるだろ?みんながお前の誕生日を祝うんだってサプライズを用意してくれてたんだよ。」

堀田さんが俺の後ろで少し呆れて少し誇らしげに言った。


「岸くん!!おめでとう!!」

そう言いながら、Queenのママが抱き着きに来たのを寸での所で避けた俺は、

「あ、ありがとう…。」と言った。

見ると、店内には紫音、迅そしてこの下にあるclub Queenのママとモモちゃんがニコニコ笑いながらこっちを見ている。


「そっか、俺、今日誕生日だったんだ。いや、みんなありがと。びっくしりしたわ。」

そう言うと迅が向うで手招きしてる。

「岸くん。ほら、こっち座って。紫音特製のバースデイケーキも用意してあるし、今回は岸くんの大好きな料理ばっかり用意してあるんだよ。」

「あ、ほんとだ!そばもあるし、このローストビーフとか美味しそうだな。」

普段はカウンターしかない店内の椅子を端に寄せて少し長細いテーブルを置いてある。

カウンターの上には様々な料理を並べて華やかに盛り付けられている。

「これ、全部、紫音が作ったの?」

「いや、ちょっと忙しくて、ほとんどデリバリーになったよ。でも、ケーキだけは作ったから。」

「めちゃくちゃ嬉しいわ!!こんな誕生日初めてだよ。まじみんなありがと。」

「ほら、早くローソクの火をけして。」

迅に促された俺はケーキのローソクを吹き消した。

「ハッピーバースデー!!」


その後、みんなから祝福を受け、Queenのママとモモちゃんにはでっかいヤギのぬいぐるみを戴いたし、紫音にはほしかったゲームのソフトを、迅にはちょっとかなり高級なウヰスキーをもらった。

「あ、そのウヰスキーは店の酒をくすねてないからね。きちんとオレが厳選して蔵元に発注してる酒だから。イナズマのロゴがかっこいいでしょ?」

迅は得意げに説明してくれた。


こんな誕生日を迎えたのは初めてだった。

親父のいない俺の家庭では、お袋はいつも忙しくて弟や妹の世話をしていた俺はいつも誕生日が過ぎたころに誕生日プレゼントをもらったりしていた。もちろん、パーティーなんてのはなかった。

まさか、こんな大人になって誕生パーティを開いてもらうなんて思ってもなかった。

俺にもこんな幸せも有るんだなぁとしみじみ感じていた。


会が終盤に近付いて、モモちゃんもママもカウンターに突っ伏し始めた。

「あーあ、ママもモモちゃんも寝ちゃったよ。」

俺がそういうと、

「ね・・・てな〇▽///ムニュムニュ~」

と言いながらママが片腕を上げてひらひらさせた。


「ふふふ。今日のこの誕生パーティ、ママが言い出したんだよ。最近岸くん、元気なかったからって。由紀ちゃんいなくなってみんなも寂しいんだけど、岸くんが一番寂しいだろうからって。

それに、俺と紫音も、気になってたから。」

迅が俺に言った。

「ん?そうなんじゃないかと思ってた。ありがとな。まぁ、寂しいのは確かに寂しいんだけどさ。でも、やっぱりみんないるからさ。俺、一人じゃないんだなって改めて思って。今日は嬉しかったよ。ありがとな。」

そう、俺が言うと紫音がにやぁと笑って、

「そうだな。岸くんには俺たちもついてるし、それに本当は由紀ちゃんもアメリカから岸くんのこと思ってくれてるんじゃないのかな。」

「・・・ ///」

紫音にそういわれて黙ってしまった俺を見て迅が、

「あれ?岸くん。顔真っ赤だよ?え?照れてる?」とからかってくる。

「おい、やめろよ。そんなわけないだろ。もう過ぎたことなんだって。」

そう、もう過ぎたことなんだ…。そう思って堀田さんのほうを見た。


すると部屋の端っこでうたた寝していた堀田さんがむっくり起きてきて、言った。

「おい、岸。俺、帰るぞ。その前に、一杯水をくれ。」

そういう堀田さんに紫音がコップに入れた水を渡す。

それを一気に飲み干すのを待って堀田さんに言った。

「あ、はい。じゃ俺も帰ります。紫音、迅。今日はありがとな。あとママとモモちゃんにもよろしく言っといて。また改めてお礼言うけど。」

そう言って、俺と堀田さんは店を後にした。




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