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KPenguin5 (筆吟🐧)

第1話 同僚からの話

俺は、岸 悠馬。警視庁の刑事だ。

俺の相方の堀田さんは、俺が今の捜査一課に配属された時からの相棒で、父親のいない俺にとって、親父ってこんな感じなのかもしれないなと思うほど、俺の事を気にかけてくれている人だ。

堀田さんにはひとり娘の由紀さんがいる。

由紀さんは今、インターポールの研修のため渡米している。そして、俺の想い人でもある。


由紀さんがアメリカにわたってもう、半年以上。

堀田さんからアメリカでの様子はたまに聞くけれど、彼女から直接連絡が来るわけではなく、ただ淡々と日々を過ごしている。


「おい、岸。きいたか?ほら、北山管理またアメリカに行っていたらしいぞ。」

朝、出勤するなり、同僚が話しかけてきた。

「え?そうなのか。」

「そういえば、堀田さんとこの娘さん。いまはアメリカにいるんだろ?北山さんと堀田さんが組んでたこともあるし、それでしょっちゅうアメリカに行ってるんじゃないのか?」

「・・・まぁ、由紀ちゃんの推薦を出したのは北山さんだしな。」

「岸。お前鈍いな。北山管理官と堀田さんの娘さん、以前は付き合ってるって噂あったらしいぞ。北山管理官も彼女と別れたって噂だし。」

「そうなのか?」


すごく平常心の顔をして同僚と話をしていた俺だけど、内心泣き叫んでしまいたいほどの衝撃だった。

そんなはずはないと思いながら、やっぱりそうだったのかと落胆する自分もいた。


「誰と誰が付き合ってるって?おい、お前、この前の調書仕上がったのか?」

そこに堀田さんが現れた。

「あ、堀田さん。おはようございます。…あ、いえ。何でもないですよ。

・・・そうだ、あの調書まだ出してなかったんだった。」

「人のうわさ話してる時間あるなら仕事しろ。」

同僚は、いそいそと逃げるようにその場を離れた。


「おはようございます。堀田さん。」

「お、岸。おはよう。そう、昨日の聞き込みなんだけどな。…」

それ以上堀田さんはさっきの話を掘り下げようとはしてこなかった。

俺もどう聞いたらいいのかわからなかったので、何も聞かなかった。


朝のもやもやした気持ちのまま仕事を終えて、俺は自然とKINGに足が向いていた。


KINGとは、平井紫音がやっているBarだ。

KINGに行くと、紫音そして境田 迅がいて、いつもくだらない話なんかで盛り上がる。俺の癒しの場所でもある。まぁ、あいつらにそんなことを言ったことはないけれど。

そんな二人は本当に優しい。だが、なぜか事件を引き寄せる何かを持っているらしい。傷心の俺を気遣ってか、紫音と迅は何かと俺を誘ってくれるが、そんなときに限って事件に巻き込まれたり、厄介なことが起こったりする。

ただ、彼らにはその事件を解決する能力もある。いままでも数々の事件を解決してきた。

ずいぶん前には、迅が解いた暗号のおかげで連続宝石店強盗事件が解決した(コインランドリー)こともあった。

冬には、山荘で雪に閉じ込められた際、殺人事件に遭遇してしまった(六花荘殺人事件)。でも、機転と推理力で彼らが解決した。

この前もそうだった。もともと一緒に行くはずだった夏休みの六花荘で俺は事件が発生していけなかったんだが、この時もまた事件に(六花荘の夏休み)遭遇してしまったんだ。しかもこの時は俺の事件とも関連していて二つの事件が一気に解決した。


あの二人はいつも、飄々としている割に頼りになる俺の友達だ。

最近では堀田さんもあの二人に一目を置いて頼りにしているようだ。


店に入るといつものように紫音と迅がいた。

何故かホッとする。最近ここに来るといつも思う。家に帰ってきたような家族に迎えられたようなそんな気分になる。

「あ、岸くん。いらっしゃい。」

俺は、何かいつもと違う雰囲気を感じ取った。

店内をよく見ると、カウンターの真ん中あたりに見慣れない背中が見えた。

「お疲れ、岸刑事。久しぶりだな。」

その人物が振り返って左手を上げ、俺に声をかけてきた。

「・・・北山さん。お疲れ様です。なんでここにいるんですか?ってか、仕事離れてるときは刑事って呼ばないでくださいよ。」

「まぁ、そんなつれない顔するなって。岸がどうしてるか気になっててな。由紀ちゃんにも色々聞かれたしさ。由紀ちゃんの様子も気になるだろう?」

アメリカに会いに行ったってのは本当だったんだ。


同僚の話にも出てきた北山管理官。

彼は俺が堀田さんの相棒に着く前に相棒だった刑事だ。

そして、今は警視庁の特別公安の管理官をやっている、エリートコースの警察官僚だ。

堀田さんの相棒だった頃、由紀ちゃんとも交流があったらしく今回の由紀ちゃんの渡米に関しては北山さんの口添えが大きくあったらしい。

いつも、シュッとしたスーツを着込み女性警察官の憧れの的でもある。


「由紀ちゃん、俺の事なんて気にしてないんじゃないですか。」

「そんなことはないぞ。まぁ、アメリカでは楽しそうにしていたけどな。同年代の仲のいい友達もできたようで、なかなか研修中なんで自由は少ないみたいだけど、楽しくしているようだったよ。

向うはみんなフレンドリーだからな。そのうち彼氏なんかできたりするんじゃないのか?」

「彼氏!!」

「おまえ、ほんとに素直だな。冗談だよ。冗談。

まぁ、でも、うかうかはしてられないんじゃないか。由紀ちゃん可愛いし、結構人気あるみたいだぞ。」

「・・・北山さん。俺にそんなことを伝えにわざわざここにきたんですか?そんなに暇ではないでしょ?」

俺がそういうと、北山管理官は急に神妙な顔をして、俺に言った。


「そうだな。岸。折り入ってお前に頼みがあるんだ。

他でもない、堀田さんの事なんだが。実は上層部の中で変な噂が出ている。堀田さんがとある人物を探っているという噂でな。その人物というのが 権藤 俊夫 代議士なんだけど、その男との関係を探ってほしいんだよ。

実は、最近義父の権藤 義之の地盤を受け継いで代議士になったんだが、この権藤義之は実は元警察官僚で、いろいろ俺もしがらみがあってな。上からいろいろ言われて困ってんだよ。」


「そんな事、堀田さんに直接聞けばいいじゃないですか。なんで俺に言うんですか?」

その男を調べているなんて俺は全く知らない。堀田さんは何をしているのか?

「まぁ、そうだよな。きっとそういわれると思っていたよ。でも、俺からは直接聞きにくい事情があってな。な、すまん。」

そう言って北山さんは俺の目の前で手を合わせて拝むような真似をした。

「北山さん、卑怯ですよ。そんな話を聞いたら、俺が気にして調べると思って話をしたんでしょ?ほんと、卑怯な手を使いますね。」

「人聞き悪いなぁ。そんなつもりはないんだけどな。ただ、この話はそこにいる君のお友達にも多少なりとも関係がないわけじゃない話なんだよね。」

紫音や迅に関係のある話?

「どういうことっすか?」

「それはまだ話をする段階じゃないんだよ。ただ、これから君たちが深くかかわってくるだろう話なんだ。」

北山さんはいったい何を言っているのか、全く話が見えてこない。

紫音と迅も顔を見合わせて困惑している。

「まぁ、そういう事で。何かわかったら連絡してくれ。これが俺の携帯だから。」

そう言って北山さんは店を出て行ってしまった。






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