第2話ー③「どうにかなるさ」
それから、日が明けても、暁はいつものように、挨拶は交わしても、それ以上の行動を取ることは無かった。
期末テストが始まっても、それは変わらなかった。彼女は私に教えを乞うことも無ければ、しつこく付きまとう行動も起こさなかった。
暁と宮本さんは、仲直りしたようだが、どうにも、ぎこちなく見えた。
期末テストは保健体育の時、気分が悪くなった位で、それ以上のことは何も起きなかった。
いつの間にか、テストは終わり、週末を超え、翌々日には全てのテストが返却されていた。
矢車さんと私はテストを見せあい、勝手に勝負をしていた。
「また、負けてしまいましたわ。今度こそ、勝てるように努力致しますわ」
「頑張って」
当然のように、加納さんは絡んで来た。
「懲りないねぇ、天ちー」
「加納さんはどうだったの?」
「ぼちぼちかな?お2人さんには負けるけどね」
教室で何気なく、語られるテスト談義に花を咲かせる私たち。
本当に私は1人じゃないんだという安心感と安堵の気持ちが強くなっていた。
するといきなり、暁が私の机の方向に突進するように突っ込んで来た。
「羽月!聴いて。今回のテスト、平均点取れたよ」
「う、嘘でしょ?あり得ない、そんなこれじゃ、私の指導は一体、何だったの。あり得ませんわ、テストを見せなさい。嘘を憑くのも大概になさい!」
「本当だよ、国語は57、数学は64、社会は68、理科は61、英語は72だったよ。凄いでしょ?まぁ、保健体育と家庭科は100点だけどね」
「Jesus!」(ありえない!)
矢車さんは頭を抱え、大声で叫んでいた。
「マリーノネタトラナイデ」
「そんなに点数って、上がるもんなんだねぇ。凄いね、ひよっち」
「あ、え、ああ?あっ、何が何だか、そうなの、良かったね」
私と友達じゃなくなるのかと思っていただけに、私の心臓の音は釣鐘のように、速く脈打っていた。
「な、何でよ」
「何が?」
「ここ数日は全然絡んで来なかったじゃない。何で、今頃」
「だって、羽月言ったじゃん。1人で勉強出来るって」
「えっ、そ、それは」
それはあの時の言い訳で本気の言葉じゃない。
「友達があたしのこと、信じてるって言われたら、それに答えなきゃ」
私は不意の出来事に、涙を浮かべていた。 あれは私が面倒くさかったから、放った言葉であって、本心では無い。
暁は私の思いに答えてくれた。その思いに私の思いは何処か満たされていた。
「ひよっち?泣いてるの、何で?」
「羽月、また変なこと、言った私?」
「私は間違ってない、間違ってない。私の指導方法は正しい、私の指導方法は正しいはずですわ」
「Just stop harassing me.」 (うざいからやめろ)
「わ、私、嬉しいの。本当に嬉しいの。ありがとう、ありがとう、暁」
「やっと、苗字で呼んでくれたね。その勢いで、晴那って」
「調子に乗るな!」
「ごめん」
暁は何処か、照れ笑いを浮かべていた。
すると近くの席から、宮本さんが現れた。
「晴那ばっか、ズルい。茜なんて、30点代のフルコースだったんだよ」
「知らないよ、そんなの。こっちは頑張ったんだからさ」
「うっせぇ、次も平均行くとは思わないし。それよりさ」
宮本さんは私の方を振り向き、私に目線を合わせた。
「今度は茜にも勉強教えてよ、は、羽月さん」
突然の出来事だった。 一体、この数日で彼女に何が起きたのか。それを察することも出来なければ、彼女の心を読むことも出来ない。
しかし、その誠意を込めた瞳に私は答えずにはいられなかった。
「は、はい。その代わり、厳しいからね」
「あー、何予約してんだよ、ズルいぞ、茜」
「晴那にだけは言われたくないし」
「平均取れなかった腹いせですかぁ?」
「やめろ、平均点マウント、むかつく」
「取れるもんなら、取ってみろだ」
「平和だねぇ」
「分かりましたわ、今度は私が指導致しますわ。それで手を」
「絶対ヤダ」 「絶対無理」
暁と宮本さんは口を揃えて、矢車さんに声を発した。
人の心は複雑でいつ軋んでもおかしくない。けれども、その軋みを正せるのは、信じてくれる人なんだと思ったら、私はもう少しだけ、暁だけじゃなく、皆を信じてみよう。
「とりあえず、テストは終わったけど、次の課題についてなんだけど」
暁と宮本さんの2人は無言のまま、席に戻っていった。
「お前等ァァァァァァ」
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あんたとシャニムニ踊りたい 第2話「どうにかなるさ」 蒼のカリスト @aonocallisto
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