第5話 殺されます


「そうかしら、殿下と私が死んだら跡継ぎがいなくなって、甥っ子に跡を継がせたらその子も殺されちゃうんですよね。それから国王陛下は戦争一直線になって、そして戦争に、負けて、負けて、負けて──」

「ちょっと待て、俺がいなくなるとそうなるってか? その話は聞いてないぞ」

「ぼちぼち思い出しているんですが、別の世界の話ですよ」

 他の二人は顔を見合わせて考え込んでいる。


「後、大量殺戮破壊兵器が出来て沢山殺されます。武器もどんどん強力になって殺されます。人は暴徒となって殺されます。独裁者はボンボンミサイルを撃ちます。殺されます」

「お前、それで死んだのか」

「いいえ、事故で死にました」

「何ちゅう世界だ」

「まあこっちの世界も沢山戦争していますし、時間の問題ですね」

「何をやっても同じならやりたい事をやるしかないな」


 その言葉に私は危惧の念を抱く。また前回みたいに自堕落で退廃的な生活に戻りたいのだろうか。父親と意見が合わなくて、母親に見放されて、妻と冷たい仲で、病に侵されて、最愛の人に拒否されて、死ぬしかなくなって────。


「そうだな、やりたい事をやろうぜ」

「よっし、まずはエネルギーだ。採掘権を取るぜ」

「僕、学者を集めるもんね、知は力なりだ」

「俺は王になる。王の中の王になるぞ」


 ああ、違うようだ。そうよね、あなたは王になるべくして生まれ、王になるべく育てられた王の中の王になるのね。

 前世の話こそおかしい。

 そうであれば私は要らない子よね。だって彼には婚約者の王女様がいるんだもの。今度こそ夫婦仲良くできるわ。


  ◇◇


 王太子ルウェリン殿下は薬中にもアル中にもならず、娼館にも行かず、結婚していないし婚約者も居ないまま二十二歳になった。

「あれ? 殿下には婚約者がいましたよね、隣国の王女様が」

「大分前に解消になったぞ」

「何で?」

「彼女は帝国の皇太子と婚約したようだ」

「あら、そうなんですか」

 やり直して同じだと思ったけれど同じじゃないような。確かにこの顔だったし名前も同じルウェリンなのだけれど、どうして?


「どうした」

「何だか前回と色々違うような気がして──」

「行動が変われば人も周りも出会いも変わるだろう」

「そういえばそうですね」

「面白いだろう」

「そう思います?」

 何より王太子ルウェリン殿下の昏い瞳が無くなれば、私も変われるんじゃないかと思う。まあ世の中そんなに甘くないと思うのだが。


「それで異世界で一番強い国はどんな国だった」

 何を考えているんだろう。厨二病な人が一番強い国を考えるって。

「えーと、自由で大きくて力に溢れていてお金も沢山で、武器は一番強いし学問も優れていてスポーツも盛んで──」

「なるほど」

「でも、他の国も強くなりたいじゃないですか。どこも自分の国が一番になりたいんですよ。何故なんですかね。私には分かりません」

「一番を強制されることもあるさ」

「そうですね、みんなの期待に応えたい症候群ってやつですか」

「それでどんな武器があるんだ?」

 やっぱりそっちなのね。でも私は知っている限り答えてあげる。私の頭じゃ大したことを言えないし、ひとりではどうにもならないし。後は神様がどうとでもしてくれるだろう。私はいい子じゃないのだ。



「さて十分に育ったようだし、そろそろ結婚して閨の相手をしてもらおう」

「え、何で? 真実の愛の相手はどうなったの」

「俺は彼女に会いに行ったけれど、とても恋に落ちようがなかった」

 とっくの昔に会いに行ったのか。あんなひどい振られ方をして、それでもやっぱり会いに行くんだなあ。愛じゃないのかなあ。

 昏い目の男は私を見る。


「そんな、だからって私じゃないでしょう?」

「何を言ってるアンナ、一緒に死んだ仲じゃないか」

「あ、あ、あれは違います! 私はおバカで王子様に憧れて恋に酔って、あんたに騙されて死んでいった哀れな子供なのよ」

「そのまま酔っていりゃあいい。俺がたっぷり酔わせてやろう。今世はお前しかいないから全てを注いでやろう。ありがたく受け止めるんだな。前世のあの身体なら十分受け止められるだろう」

「そんなあーーー」


「いくら何でもまだ十二のガキに手を出すのかい」

「月のものはもう来たと連絡があった。中身は幾つなんだ」

「知らないわ」

「浮気して欲しいのか」

 ムッとふくれた。

「ふーん」

 男はニヤリと笑う。

「この国の女は十二歳で結婚出来るんだ。俺はもう二十二歳だ。父上と母上が急かして来るし、もういいんじゃないか」

「で、で、でも」

「白い結婚もあるぞ。大人になるまで待ってやろう」

「白い結婚……。何かそれは忌避感があるのだけれど……、私でいいの?」

 ああ、とうとう私の口からそんな言葉が転がり落ちる。


「俺とお前は今度こそ一緒の墓に入るのさ」

「うん」

「それまでにやりたい事をやってやろうぜ」

 やっぱり厨二な男だわ。でも私は満面の笑顔で両手を広げて、この男の首に抱き付くのよ。

「やってやろうね」

 それがどんな事でも──。


 私の中には今世の私と前世の私と前々世の私がいる。ジグソーパズルはまだちゃんとはまっていなくて穴だらけだ。


 最近思う。

 このにっちもさっちも行かなくなって、人を巻き込んで死んでいった悪たれが、死ななければどういう人生を歩んでいくか見てみたいと思うのだ。昏い瞳じゃなければ私の勝ちだと思う私は、前世から彼に絆されている。



  おしまい

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

情死で死に戻りました。相手の王太子とやり直したくありません 綾南みか @398Konohana

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ