第4話 取り巻きがいます
ペット認定した私を抱き回し連れ回した挙句、ルウェリン殿下はお風呂に入れてやると言い出した。もちろん私は逃げ出そうとした。
生憎私は彼の膝の上にいて、そのまま掴んで浴室に運ばれた。服を剥ぎ取られて浴室に放り込まれる。裸になった王子様が入ってくる。逃げても捕まえられて綺麗に洗われる。
「幼児趣味ですか」
「ペットのようなものだ。お前が俺に慣れるよう可愛がってやっている」
「虐めての間違いじゃないですか」
「早く大きくなれ」
「無理です」
「美人にならないと──」
「美人なんか無理です。元がコレですし」
殿下は昏い目でも髪は金髪で瞳は蒼で顔立ちは美しいし所作も優雅で美しい。
「まあ頑張れ」
顔の方は諦めたらしい。お風呂から出ると夜着を着る。彼も着て一緒のベッドに横になる。抱き枕にするつもりか。寝かしつける体勢だが。
「何かこう、もっと思いやりのある言葉はございませんの」
「これだけ可愛がってやって何の文句がある」
これは猫可愛がりで本当の愛じゃないと思う。もっと厳しく……。いや厳しい躾けは今現在侯爵家で毎日嫌と言うほど受けている。では飴と鞭か。飴の部分だけ取るとはセコいんじゃないの。私じゃなくて甘やかしたい人は他にいるんじゃないの。
「あの方はどうなりましたの、お会いになりましたか」
この男には真実の恋の相手がいた。情死した私ではなく、貢ぎに貢いだ相手がいたのだ。死の間際まで貢いだという。それなのに私の相手をしている場合ではなかろう。折角やり直しができるのに。
大体、婚約者はどうした。王都から離れているから噂も聞かない。
「誰だ」
空とぼける男が憎い。
「あの方と言ったら決まっているでしょ。あんたが入れあげて振られた彼女よ」
貢いだ挙句に振られて、他の女と死んじゃうなんて馬鹿じゃないの。無理心中とかあるじゃないの。おバカな私を巻き込むことはないと思うの。
相変わらず昏い目だがこの最近眉は下がっていない。改めて見るとなかなかいい男である。もちろん王子様だし。これなら彼女の方が惚れるんじゃないか?
「俺もやり直して勉強している」
「さようでございますか。薬とか病気とか怖いものだとお分かりになったようで何よりでございます」
「相変わらず、減らず口だな」
ルウェリンが私の頬を両手で摘まむ。
「にゃにゃにゃにお」
「猫になったな。猫の方が可愛くてよい」
虐めるだけで可愛がる気はないのか。サドなのか。私はマゾではない。相性最悪だわね。
それでも気まぐれにやって来る彼に遊ばれているのは、気が抜けるからだ。
四六時中見張られるのは辛い。前々世はおひとり様だったのだろう。
王太子ルウェリン殿下には取り巻きがいる。私が十歳を過ぎる頃には時々お茶会に連れて来だした。近くに狩場があるそうだ。そういえば死んだのも狩猟用の別邸で死んだんだっけ。チラリと昏い男の顔を見ると唇を捻じ曲げた。
「面白い子だね」
狩りの仲間がいると聞いたのは前世だったが、今日の取り巻きは少し毛色が違う。赤毛にグリーンの瞳の男は大金持ちの跡継ぎで、王太子と同年でジェームズという侯爵家の子息だ。
「面白い子枠ですか」
「ご不満か?」
「別に構いませんけれど」
「待てよ。俺んち男爵家だけど、どう。ダークブラウンの髪にグリーンの瞳でほっぺが可愛い。俺こういう顔好みなんだよな」
自分を売り込んでくるのは銀行家の三男で、黒い髪に茶色の瞳の優男ルイ・ジョセフ。どちらもルウェリン殿下と似たような歳だ。
こいつらいい年して幼児趣味かしら。殿下もそうなのか?
「生憎私ん家は侯爵家なのでございますの、おほほ。まあ、平民になって逃げてもよろしゅうございますけれど」
「逃げる気満々だな」
「そりゃあもう」
「俺ん家郵便馬車やってんの。逃げる時手助けしてあげよう。銀行よりいいんじゃないかな、俺ん家金持ちだよー」
「王様が一番金持ちじゃないの?」
「そうでもない」
相変わらず目だけは昏い男が言う。彼が言えば本当なんだろう。
「王家が貧乏なの? 国が貧乏なの?」
彼はチラリと私を見たが他の二人に笑われてしまう。
「あはは、面白い事を言うね、君は」
「俺にしなよ。貴賤とかないし、俺ん家ざっくばらんだし、君も好きな事をすればいいし、君んちのグランビー候爵家にとってもいい話だと思うなー」
「くっ」王太子が少し悔しそうな顔をする。おかしい。私がモテている。何かの間違いだわきっと。
私は前々世大した仕事もしていなかった。何の知識もないし、それでも私が持て囃されるのなら、いっその事ぶちまけてしまおう。
「何をするにしても、どうせこの後、国は軍部が握って軍国主義になって独裁者が出て来て、世界大戦とか起こって、異教徒の金貸しは一族郎党軍隊に捕まえられて大きな建物で殺されるんだわ」
「ちょっと待て!」
金貸しの子息ルイ・ジョセフは驚いて聞き返そうとする。
「違う世界なので、この世界ではどうなるか知りません」
「ガーン」
「面白い子だろう?」
王太子が昏い顔で笑う。
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