最終話 二つの花束
「佐田さん、今入院してるんだ。捕まった後気を失ってやっと昨日目が覚めた。怪我が酷いから今はここに来れない。…今から話すのは、病室で彼女から聞いた話になる」
話を聞いて、それを1番知りたがっているのは、そして知るべきなのは他の誰でもない、高峯二奈だと思ったからだ。
「佐田さんは、未来に起こる不幸を予知できるらしい。…だから塔野の飼い犬を救えた。…だからここに、花を供えた」
佐田が置いた花は枯れてこそいないが、萎れている。あれから数日が経っていたから、当然だった。
「彼女は君があの日死ぬことを知った。…場所は駅の近くで、犯人は今回と同じだったらしい」
佐田奈央華は近い未来に起こる不幸が見える。そう病室で知らされた吉田は驚きとともに、納得していた。彼女がとった不思議な行動にしっくりくる説明がついていく。
「君と犯人が合わないように回避しようと色々計画を練ったが、全て結末は同じ。ならば自分が何か変えられるかもしれないと思って、君と行動することに決めたんだって」
駅の近くで襲ってくるはずの犯人は佐田が予知した通り、行動を変えても2人を襲ってきた。そして山の中で、2人は誘拐される。監禁中に刃向かい、逃げようとした高峯は倉庫の外で殺された。
「死体が誰にも見つからないだろうから、前もって花を買い、供えることにした。自分は生き延びるが怪我を負う。そのまま入院して、ここに来れるようになるまでに時間がかかる。…その間、誰も花を持ってこない未来が見えていたんだって」
高峯二奈の葬式に参列することも叶わないだろう。
「結局、幽霊の君が俺に助けを求めるというイレギュラーが起きて、君の体はすぐに見つかったし、今俺がここにきているんだけどね」
自分の分も思いを伝えてほしいと託されていた。
「見つかった時の佐田さん、すごく泣いてただろ?あれは怖かったからじゃなくて、君の死を悲しんで泣いていたんだ」
佐田は高峯を助けられなかったことをひどく悔いていた。殺される前、高峯は必ず助かろう、と佐田を勇気付けたらしい。自分の運命なんて知らずに犯人を挑発し、気を引いて逃げようとした。
「犯人達は佐田さんから目を離し、君の死を隠そうと交錯した。それが終わらないうちに警察に見つかったんだ」
その結果、自分だけが助かってしまった。そう話し、病室で泣きながら謝る彼女の姿がやけに記憶に残っている。高峯の助けるという言葉が、自分の心に勇気を与えた。
「高峯が彼女の心を救ったんだ。そして幽霊になっても、彼女のために動いていた」
二奈が必死になって助けを求める顔が鮮明に浮かぶ。いじめは褒められたことではないが、…最後の彼女は悪い人ではなかった。
「…君のしたことは認められるべきだ。……だから今日、花を手向けに来た」
また、風が吹く。供えられた二つの花束が音を立てて揺れた。
「君を忘れない。君のしてきたことを恨む人はいるけど、俺は君が、彼女を助けるために走ったことを知ってる」
高峯の幽霊の話を佐田に話すか、吉田は迷っていた。しかし、なぜ小屋の場所がわかったのかを佐田に問われ、その場で話をした。
いい言い訳も思いついていた。でも、一つの魂の思いを、自分の中だけにとどめておくのは良くないような気がして、本当のことを伝えたのだ。
「今度は佐田さんとここに来るよ。彼女からも話があるだろうからね」
吉田は息を吐いて、目を閉じる。
「…どうか安らかに」
そう短く告げて、吉田は石碑から離れた。やはり気配も姿もない。高峯二奈の魂は、もうとっくに消えてどこかへいってしまったのだろうか。
鳥居を潜り、吉田はもう一度石碑に目をやった。そこにはただ木漏れ日が降り注ぎ、二つの花束を照らしているだけだった。
了
枯れた花束 芦屋 瞭銘 @o_xox9112
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