第6話 仲介
「俺は何度か君にかまをかけた。その答えを聞いて、君は…君自身が死んだことに気がついていないんだと確信した」
吉田は何度か、二奈に対して彼女が生きている前提での質問を投げていた。
“親は何も言ってなかった?”
“小屋まで後5分くらいか…結構歩いたけど、疲れてない?”
「吉田にはわかってたんだ…」
「流石に違いは見ればわかるよ」
吉田は寂しそうな、でも無感情のような曖昧な顔をした。他人の冷静な顔を見て、二奈は自分の死が事実であると自覚していく。
「警察に知らせてくる。…高峯も来る?」
「…ううん。…いいや」
「わかった」
吉田はその場から去っていった。クラスメイトが死んでいるのに顔色ひとつ変えない。彼のせいで自分の死に気が付けなかったようなものだ、なんて少し悪態をついたりしてみた。
倒れる自分の体を見下ろし、二奈はつぶやく。
「……これが私にはお似合いなのかもね」
風が吹いた。それを体で感じ取ることがいつのまにか出来なくなっている。
「頑張って、…走ったのになぁ……っ……あの子とまた、…はなして、…っ…また………っ」
佐田を助けることはできた。でも、自分は死んでしまった。
ストン、と何かがはまったような音がする。
今、二奈は全てを理解し、知ってしまった。もう誰にも受け入れられることはない、いじめっ子の高峯二奈。その存在はすぐにみんなの中から消えるのだろう。
「あっちですか…!」
「はい、あの石碑の方です」
数名の足音が聞こえる。吉田と彼に呼ばれた警察官だろう。二奈の体が運ばれる間、吉田は幽霊の二奈を見なかった。最後帰る間際に一度だけ彼女の目を見て、ごめん、と小さくつぶやいた。
ーーーーー
「…………」
休日の昼間、山にも太陽の光が漏れている時刻。吉田は小さな花束を持って山の神社の鳥居をくぐった。
虫や動物の気配もない、静かな場所だ。
時折冷たい風が吹き、空気を浄化する。
「…………」
吉田は石碑の前につき、花束を置いた。そこにある花は佐田が置いたものだけだった。石段に少しだけ血の跡が残っている。
周りを見渡すも、何もない。…誰もいない。吉田に霊が見えるのは、その人物が死んでうたたない期間だ。時間が経てば、見る力、聴く力も薄れていく。
「……聞こえてるかもしれないから、佐田さんのことを話す」
吉田は小さな声でそう告げた。
事件当日、なぜ佐田奈央華が花を持ってここへ来たのか。その理由を吉田は本人から聞いてきた。もうしかしたらここにいるかもしれない高峯二奈に、それを伝えるために。
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