第5話 現場へ
「佐田さんっ!!!」
「ちょっと君!!」
犯人は呆気なく取り押さえられ、それを見計らったように、泣き腫らした佐田奈央華に塔野が寄り添った。それを見て二奈は息を吐き、肩を撫で下ろす。
「よかった…無事だったんだね……」
「…そうだね」
吉田は二奈とともに遠くから見守っていた。二奈も佐田に駆け寄ろうとしたのだが、吉田が強く止めてその場に止まっている。
「佐田さんを先に休ませたい。降りようぜ」
「先に行ってて、後から降りるから」
佐田の方を支え、塔野は歩いて行く。佐田は泣きじゃくっていて、何か言っているが言葉になっていない。
「高峯。少しいい?」
「なに…?」
「佐田さんが行きたかった石碑の場所、知りたいんだ」
すぐにでも佐田に付き添いたいという二奈の気持ちを吉田は断ち切る。
「…わかったけど…あそこ暗くて不気味だからすぐ戻るよ」
「うん」
2人は小屋の裏に向かい、神社にたどり着いた。外はすっかり暗くなり、冷たい風が吹いている。
「…こっち、あ、見えた、…あそこのーー」
「…………」
2人は足を止める。
二奈は言葉を失い、吉田は黙ったまま石碑に近づいた。
「……なにこれ」
ようやくぽつり、と二奈がつぶやく。
石碑の前には佐田が置いた花がある。
そしてその側には、血だらけで倒れる高峯二奈の姿があった。
「君の死体…でしょ」
「え……は…?意味がわからないんだけど」
二奈は心底不思議そうに首を横に振る。その表情には徐々に恐怖が混ざっていった。
目の前のものを慎重に観察する。どう見ても高峯二奈本人でしかなかった。
「……あ…」
胸元に大きな傷がある。体からの出血は広範囲にわたり、離れて立つ2人の足元に届きそうなほどだった。
「……君はもう死んでいたんだ、昨日の夜、俺とぶつかった時にはすでに」
それを聞いて二奈はか細い声を漏らした。事実を噛み砕けずに混乱している。
「そんなわけない、だって今、…吉田と話をしてる」
「俺は幽霊が見える。声も聞こえる。そして触れる。だから君と話せるし、昨日君とぶつかることもできた」
「……そんなのおかしい、私は……」
「じゃあ俺以外と口を聞いた記憶はある?みんな無視してたんじゃないよ。はなから君が見えてなかったんだ」
二奈の目が絶望に揺れた。
思えば、吉田が自分と言葉を交わすのは学校でも外でも、周りに人が誰もいない時だった。ぶつかった時「ごめん」と告げた声もすごく声が小さかった覚えがある。
「でも、昨日私塔野くんと目があった……彼が部活に行く前、私の方を見てる」
「君が立っていたのはどこだった?」
「え……?……あ…」
二奈は教室での自分の立ち位置を思い出す。
「君は佐田さんの机の横に立っていた。塔野は佐田さんのことを考えて彼女の机を見たんだよ」
その時の二奈は、入り口から佐田の席を見る直線上に立っていた。だから塔野が机を見た時、彼と目があったと勘違いしていた。
「そんな……」
自分が死んだことに全く気が付かなかった。今でも信じられない。
「俺は何度か君にかまをかけた。その答えを聞いて、君は…君自身が死んだことに気がついていないんだと確信した」
吉田は何度か、二奈に対して彼女が生きている前提での質問を投げていた。
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