第4話 鉢合わせ

「小屋まで後5分くらいか…結構歩いたけど、疲れてない?」

「ううん、大丈夫」

「…ならよかった」


 ぎこちなく気を使う吉田を二奈は少し笑ってしまう。今までほとんど話したことはなかったが、なかなかいいところがあると内心で少しだけ褒めた。ついでに気になっていたことも聞き始める。


「あのさ、塔野はなんであんなに佐田さんのこと気にしてたの?」

「え?」

「さっき教室に来た時すごく焦ってたじゃん」


 先程教室には駆け込んできた塔野は、明らかに焦っていた。佐田奈央華について特別な感情を抱いているような慌てようで、二奈は気になっていたのだ。


「あー。なんか佐田さんのおかげで飼い犬が助かった…とかじゃなかったっけ」

「助かった?」

「あ、そうだそうだ、思い出した。塔野の飼い犬がいなくなっちゃったんだけど、家の近くの道路で足を怪我してて、動けなくなってたんだ。車に轢かれる手前で佐田さんが探し出してくれた」


 クラスでは有名な話だったが、話に入れない二奈は知らない内容だった。人の悩みを聞くと放っておけない性分なのかと二奈は佐田の優しさを再確認する。


「すごいね、佐田さん」

「だよな。なんか佐田さんに話してからすごい勢いで見つかるまで進んじゃって、俺も手伝ってたんだけど驚いた」

「吉田も手伝ってたんだ……あ、…あそこが小屋だね」


 そんな話をしている間に2人は小屋が見える位置までたどり着いた。目を合わせ頷き合う。ここからは足音を立てないよう慎重に進む必要があるためだ。

「…………声がする」


 小さく吉田がつぶやいた。聞こえたのは女の子の声。きっと佐田奈央華だ。


「中の様子を確認して行けそうだったら行こう。無理そうなら通報する」

「わかった」


 2人はじりじりと小屋に近づいていく。

「っ!!」

 急に足元を明かりで照らされ、吉田は足を止めた。ライトに向かい、勢いよく振り返る。


「…吉田……?」

「塔野…え…警察…なんで…」


 そこには警官5名とクラスメイトの塔野が立っている。一度小屋から離れ、少しお互いの情報を共有することになった。

「そっか、だからここがわかったのか」


 塔野が場所を特定できたのは、以前佐田がこの小屋のことについて話をしていたからだという。私がいなくなったらここを探してほしいと言っていたらしい。場所が細かくわかるのが塔野だったため、警察と同行しているらしかった。


「なんで夕方それを早く言わなかった」

「だって、脅迫状とか誘拐とかで頭真っ白になって…」

「それで吉田はどうして…ーー」

「静かに、何か聞こえます」

「…泣き声……?」


 警察はすでに突入の準備を終えているようだった。中の犯人に気づかれないうちに方をつけるらしい。吉田たちはそれを離れたところで見守っている。


「突入します!!!」


 銃を構える音、小屋の扉を開け放つ音。

 そして2人の男の焦る声。

 扉からわずかに見える中の様子を覗くしかなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る