第3話 理由は?
その場所は学校から少し歩いた山にある倉庫。倉庫といっても小屋のような小規模なもので、普段はかくれんぼに子供が使うくらいだった。
山道の入り口まできて、吉田はちらりと二奈を見る。
「佐田さんと仲良かったんだ」
「…まあ、話はしてくれてた。…あの子優しいから、私のこと気にしてくれてて」
「そっか。佐田さんらしいね」
佐田さんと呼ばれる女子生徒、佐田奈央華は控えめで綺麗な顔立ちの大人しい子だ。誰に対しても優しく思いやりを持っている。
流石にクラスの雰囲気を察してか二奈との会話はほとんどなかったが、放課後や誰もいない時は話をしていたのだろう。
「それより…」
吉田は先程二奈から聞いた昨日の出来事をなぞっていた。学校の帰り、2人は自分の家ではなく、山の方向へ向かう。その理由は佐田が二奈を誘ったからだった。
“山の神社に行きたいけれど、1人じゃ心細いんだ”
学校で居場所のなかった二奈はそんな意味のわからない誘いに付き合うほど、判断力をなくしていた。心細いところへ出向く付き添いに他の誰でもない、二奈を選んでくれたのが嬉しくてしょうがなかったのだ。
神社に向かい、その近くの石碑に佐田が花を添えた後、2人は山道を降りた。その道中で何者かに捕まってしまう。
『犯人は1人じゃなかった。2人とも簡単に抱え上げられて小屋に連れていかれた。』
一方吉田は佐田の目的について考えていた。どう考えても、疑問が残る行動が多い。
まず、普段誰も近寄らない山の神社の石碑に花を供えに行ったこと。
そしてその連れとしてクラスで最も嫌われているであろう高峯二奈を選んだこと。
まあ、理由は本人に聞けばいいかと吉田は再び二奈に話しかけた。
「高峯はどうして人をいじめてたの?」
吉田にとってずっと疑問に思っていたことだった。彼女は結構な長期間クラスメイトをいじめていた。
「……わかんない。いじめてる自覚もなかった」
「そうなんだ」
「ちょっと前の自分のことなのにわかんないの。家で居場所もないし、むしゃくしゃしてたのかもね」
「大変だね。色々と」
「…大変だけど……きっとすごく惨めなんだ、私」
多分、本人の中で答えは出ている。二奈は自分よりも幸せな境遇に生まれた人たちが憎かった。家に居場所があるのに不幸そうに、家族を迷惑そうにしている人を見ると気持ちを抑えられなかったのだ。
吉田はあまり踏み込まず、そのまま歩き続けた。二奈もこれ以上の話は望まず、違う話題を振る。
「佐田さん…大丈夫だよね」
「…昨日から丸一日経ってるけど身代金要求してるなら無事だと思う」
「そっか……」
緊張を保ったまま、二人は静かに足を進めていった。
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