第2話 必死の訴え
放課後。
クラスメイトは部活に向かい、教室には二奈と彼以外誰もいなくなった。
「吉田…」
「なに」
誰もいなくなった途端、彼は口を聞いてくれる。やはり人がいる環境で高峯二奈と口をきくのはリスクが高いらしい。
「吉田…大変なの…!!佐田さんが」
「聞いた。今日無断欠席だったんでしょ」
彼は後ろの席を見やる。彼と二奈の間、今日一日空いていた席の持ち主は佐田さんと呼ばれる女子生徒だった。
「お願い吉田、聞いて…!」
クラスメイトであるから当然、彼の名前も知っていた。彼は吉田 徹。そこまで友人の多くない、静かな人物だった。
「昨日、私佐田さんと誘拐されたの…!!」
「は…?!誘拐…!?」
「昨日帰りに一緒になって、変な男達に攫われて…私はなんとか逃げられたけど…!」
「じゃあ佐田さんはまだ…」
「捕まってると思う…居場所もわかる」
「その場所はーー」
吉田の言葉はガタン、という大きな音に遮られた。2人は音が鳴った教室の入口へ視線を向ける。
「よかった誰かいた…」
「塔野…どうかしたのか?」
そこには息を切らした男子生徒が立っている。その生徒ー塔野ーは吉田の席に近寄った。二奈は気を使い、気配を消す。やってきた塔野も二奈をよく思っていない生徒だったからだ。案の定目もくれず、吉田に話しかける。
「佐田さん、誘拐されたって」
「……」
「佐田さん昨日家に帰ってなくて、金よこせって脅迫状が届いたって……」
「まじかよ…」
「どうしよう、俺たちも何かした方がいいのかな…!!」
「高校生の出る幕じゃないだろ。警察に任せて俺たちは待つしかないよ」
「でも…!!」
「いいから部活行けっての。あんま言いふらすなよ」
「………うん」
納得のいかない顔をして塔野は教室を出る。そして出る直前で二奈の方を向いた。しかし何も言わず、そのまま去ってしまった。
「どうやらマジらしいね。…高峯の家に脅迫状は?」
「知らない…郵便受けとか見たことない」
「親は何も言ってなかった?」
「…うち…離婚してるの。今は父親と住んでるけどほとんど帰ってこない」
昨日も家に帰った時誰もいなかった。だから誘拐のことを相談できずにそのまま次の日を迎えてしまっていた。交番の巡査は巡回中で会うことはできなかった。
昨日のことを考えていると吉田は罰が悪そうな顔で二奈を見ている。
「なに」
「ごめん。…ちょっと踏み込みすぎた」
「ううん。いいよ別に」
変な空気が流れて吉田が何かに気がついたようにノートを広げる。
「それでさっきの続きだけど、佐田さんがいる場所は?」
「え、さっき警察に任せるって…」
「答えがわかるのにそんな回りくどいことしないよ。一刻を争うんだろ」
「吉田……うん。場所教える」
二奈は感心して吉田に昨日の出来事と場所を伝えた。吉田は表情を崩さずそれを聞いている。
「それじゃあ移動しようか」
「うん」
学校を出てからはお互い無言で、吉田は二奈が伝えた場所に一直線に向かっていくだけだった。
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