第一八話

「他のメンバーとは初めて会うけどさ。全員ルックス超いいじゃん。なんで顔出ししないの?勿体無い」


「私たちは別にアイドル売りみたいなことしたくないからね。ルックスなんてどうでもいいんだよ」


「今より再生数伸びるって。んで、私も加えてよ」


「蓮華さん。面の皮厚すぎ」


 今まで見たこともないほど不機嫌な顔をした詩音をこれ以上見たくなくて、つい口を挟んでしまった。


「リーダーは詩音でしょ。あんたは黙っててよ」


「だまんない。だって私だってメンバーの一人だからね。気に入らないことには口だって出すよ」


「は?残りのメンバーって詩音より年下なんでしょ?てことは中学生か高校1年か2年でしょ?ガキが話に入ってこないで」


「高校生の趣味サークルに大人が無理矢理入ろうとしてる方が問題でしょ。何考えてんの?詩音だってさっきから断ってんじゃん」


「大人の私がこうした方がいいってアドバイスしてあげてんの。わかる?」


「わかんない。こっちは趣味でやってんだからほっといてよ。おばさんのアドバイスなんていらないよ」


「おばさんて誰のことよ」


「わかんないなんて頭も悪いの。かわいそ」


「いい加減にしてよ!」


 凛音が蓮華さんと私の言い合いに割って入ってきた。いつになく真剣な凛音の瞳に射抜かれて、ヒートアップしてきていた私の頭がサッと冷えた。


「ごめん凛音。蓮華さんもごめんなさい。言いすぎました。でも私たちは今のままでやっていきたいんです。これ以上私たちに関わってこないでください」


 売り言葉に買い言葉で、悪口を言ってしまったことを謝罪し、こちらの言い分もしっかり伝える。喧嘩腰は良くなかった、反省しないと。


「…っ。チッ。いい気になってガキが!」


「いくよ。雪菜、凛音。さようなら蓮華」


 詩音が私たちの手をとって足早にその場を去る。喧嘩なんかしてしまった。申し訳ねぇ…

 しばらく行くと、詩音が掴んでいた手をぱっと離して、こちらへくるっと向き直った。


「しっかしまぁ、今日は雪菜の意外な面が色々見れて面白いですなぁ。意外と子供っぽいんだね」


 またニヤニヤしながらそんなことを言った。私の頰がかぁっと熱くなった気がした。


「そうだね。身長も高いし、普段はクールっぽく振る舞っているからね。今日は随分幼く見えるよ」


「凛音まで!」


 真っ赤な顔で叫んだ。嫌なこともあったけれど、とても楽しい休日だった。これが、あんな事件に繋がっていくなんて、私たちはこの時はまだ思っていなかったんだ。

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彼氏と、彼女と、それから私 三条 和 @usagimochi3

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