最終話
「ちょっとー博士、ぼくのノートパソコン勝手に触らないでくださいよー」
「きゃああ! 助手君、いつの間に私の後ろにいたの?!」あせあせ……
(ハッ……まゆかのことを書いた、ノートを隠さなきゃ。パソコンカタカタしながら妄想ノートに書いてるなんてヤバイヤツよね……こんなの読まれたら、メンヘラ女とおもわれて助手君に捨てられちゃうわッ!)
「入りますよー、っていったのに反応がなかったんじゃないですか! ってか博士はパソコン使えませんよね? なーにてきとーにキーボード叩いてドヤっているんですか~?」
「フフっ! 私はクールでカッコいいイメージが浸透しているからねっ! パソコンカタカタさせて、バリバリなキャリー博士ちゃんになるわよっ♪」
(パソコン全く使えなかったからこの辞めさせ部屋に異動になったんだけどなぁ……)
「もう博士は博士じゃないですけどね♪あっさり研究職はクビになっちゃいましたし。最初は社員だったのに、今ではパートタイマーに繰り下がり、今ではぼくのほうが階級上ですからね~」ハッハッハッーーー!!!
(ぐぬぬぬ……ちょっと出世したからって、助手君のくせにナマイキ!
でも……最近は毎日、助手君に晩御飯をご馳走になっているのよね……。
正直、頭があがらないわ)
「うぅ……助手君、せめて肩もみでも……」メソメソ……
「い、いえ冗談ですよっ! ぼくが博士より偉いわけないじゃないですか!
ぼくは永遠に、博士の忠実なしもべです!」
「アラ本当?! ならまた焼きそばパンでも買ってきてもらおうかしら~♡」
(社員食堂にいくと他の女性社員に陰口いわれるから、いやなんだろうな……)
「わかりましたよ♪ア、そうだ。じゃあ肩もみのかわりになにかアイデアをだしてくださいっ! 今度、新しいおみやげを作ろうという企画があるんですけど」
「フムフム……。それは、王都に観光にくるお客さんにむけた物よね?」
「そうですっ! ソピアの方々と協力し、いろいろと新製品もできているのですが……やはり王都でしか手に入らない、ドカーンとインパクトのあるおみやげがほしいなぁって」
「フフッ! いい方法があるわっ! ユニエル君の角を特殊ゴボウと偽って売るのよ」
「えぇ?! ユニコーンの角をゴボウにしちゃうんですか?!」
「えぇ……あなたはしらないでしょうけれど……あの子の角、よくとれちゃうのよね。捨てるのももったいないし、孫の手にもならないでしょう? だから、食べる方法を考えているのよ♪
そ、それに……折れた角を遠くから見れば、正直ゴボウと見分けがつかないわ……じゅるり」
(博士……なんだかひもじそう。食費がギリギリだから、なんでもおいしそうにみえるんだろうな)
「そうだわっ! せっかくだから今からユニエル君に餌やりにいきましょう♪」
ユニエル君は、アタマオハナバタケの権利を売却する前に、もう一度ユメヒヤシンスを採取して作ったユニコーンだ。
錬金術師の手記はなくしちゃったけれど、必要材料はおぼえていたから、なんとか作れたってわけ。
初めて見た日、幼体であったユニコーンのすがたが、なんだかおいしそうだったので、ムニエルとかけて、ユニエルと名づけたのよ……。
政府はユニコーンに興味を示さなかった。翼もちいさく、飛ぶことができなかったからかもしれない。角も立派で美しかったけれど、戦争特需であったから、そんな物は金にならないしね。だから、王都に左遷される時、ついでにつれてきたってわけ。
(まずはブラッシングと……助手君には小屋掃除を任せましょう)
ゴシゴシ
ゴシゴシ
ユニエル君は……気持ち良さそうに目を細めている。
(終わったから、それじゃ、飼い葉をあたえて……と)
パッパッ……
もしゃもしゃ……
ユニエル君は……飼い葉をおいしそうに食べている。
「おわったわ~散歩はまた夜でいいよね」
「けっこう大きくなりましたけれど、まだ翼はちいさいですねぇ。これより大きくなるんでしょうか?」
「これでも翼も大きくなったのよ! 一年くらい世話すれば、飛べるようになるんじゃないかしら? ユニエル君♪その時は私を背中に乗せてね」
「ユニユニユニ!」(お前みたいなじゃじゃ馬娘、俺っちの背中にのせねーよ)
「うげっ、なんか吠えましたよっ! ヒヒーンとかじゃないんですね……」
「ユニユニユニ!」(俺っちをそんじょそこらの馬といっしょにすんじゃねーぞ。若造がっ!)
「これはユニエル君の友好の証よっ♡いつもこうしてユニユニいって、私のこと大好きっていっているのよ」
「へ、へぇ~そうなんですか。さすが博士! ユニコーンの言語がわかるんですね! ところで、この角とれちゃうんですか?!」
「そうよっ! いつも夜の散歩の時……壁に激突してとれちゃうのよね♪」エッヘン
「でも、すぐに生えてくるのよ♪使い道がないから新種のゴボウとして売っちゃいましょう♡」
「ユニユニユニユニッ!」(このアホたれ娘がっ! ユニコーン様の角はな、解毒効果があるっちゅ~ありがてー角なんだよっ! それを野菜にして売るんじゃねーよ)
「えぇ……壁にぶつかっているですって?」
「どうしたのよ、助手君」
「今日、街環境安全課のほうで噂になっていましたよ! 最近、町の壁に不審な貫通穴が発見されているって! 警察に相談するか、検討に入ってるらしいです! それもしかして、ユニコーンの仕業なんじゃ……」
「ユニユニユニ!」(俺っちは悪くねーぞ? コイツがいつも自由気ままに手綱ひっぱるから、痛くてつい思いっきり走っちまうんだ)
「そ、そんなわけないじゃないっ! きっとドリルオタクが夜な夜なテストしているのよ……っ」汗だくだく……
(怪しすぎる……)「そ、それにしても、ユニコーンをみていると、まゆかちゃんのことを思いだしますね!」
ズキリ……
「え、えぇ……そうね。まゆかにも、このユニコーン、見せてあげたいわ……」
「たしか……お見送りのパーティー、飛行機の都合で参加できなかったんですよね」
「残念ね……また、会えるといいけれど」
「会えますよっ! チケットの約束、まだあるんですから……。きっと、まゆかちゃんから連絡してきますよっ♪」
「……うん」
(博士元気ない……)「ホラ、空をみてください……灰に包まれていますけれど、この空は帝都につながっているから……いつでも、この馬の背に乗って、飛んでいけますよっ♪」
「ユニユニユニっ!」(だから馬じゃねぇっつーの!)
ポッカーン!
「あーーーーれーーーー」
「えぇ、そうね……元気出さなきゃねっ! といおうとおもったけれど、助手君がユニエル君の蹄に蹴られて吹きとんでしまったわっ! それこそ空の彼方へ……。いそいで追いかけナイト」シュババババ
それから数十年後……
老婆がひとり、ユニコーンに乗り、帝都におりたった。
一時は星で一番危険な場所と呼ばれた帝都だが、争いの火種をもつ人間のほとんどが息絶え、大半の生命体がソピアにかわった。彼らは音を使った会話をしないため、都はしずけさに包まれていた。人間がいないから、ことばも飛びかわない。
静穏……だ。
戦争によって危険視された地域であった帝都に、発展した工業用自動機械のほとんどは設置されなかった。棄てられた都市──ソピアたちは、そう呼んだ。よごれた灰と塵くずがつもり、灰色に染まったボロボロのビル群の街。そこに、かつての星一の兵力を持つといわれた栄光の残り火すら残っていない。
帝王も兵士も政治家も富豪も偽善者も市民も貧民も……火が消えるように少しずつ消えていき、ソピアと置き換わっていった。
老婆は……生き残っていた人間であったが、もう、同種の仲間たちの顔は、記憶の奥底で眠りにつき、拾い上げるのに苦労する。夢で時たま会うことができれば、幸福という程度だ……。
老婆は……少女の型のソピアに声をかけられた。(意思疎通デバイスを用いて)
その少女の顔をみた瞬間、彼女のひとつの記憶が浮上した……。
懐かしい記憶……。お花畑に水をやる、少女の笑顔……。なんども夢見てきた、ユニコーンにまたがる少女のすがた……。
—―また、会えたね。
老婆は少女が売っていたリンゴを買い、かじりながら町を歩いた。
負荷孵化 ─ふかふか─ 木目ソウ @mokumokulog
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