第11話 最終話
カラカラと音を立てて、自分とブラウンを囲んでいた暗闇が崩れ落ちた。
「シャーロット!!」
叫ぶような声で私の所に駆け寄ってくるクロウは、ギュッと私を抱きしめる。
生まれ変わって再開してからまだ数時間しか経っていないのに、すっごく甘々ですな。
昔のクールなクロウに会いたいなって言ったら、怒るかな。
「本当に、どうして私を選ぶのよ、メロメロの呪いだって、解けたでしょ?」
「君が俺にメロメロの呪いをかけたんだろう?」
腕を緩めたクロウはちょうど私の耳に吐息と声がかかるように、話しかける。
もう少し手慣れていない感じだった昔のが、好きだったな。会わない間に色々と聞かなければいけないことができたかもしれない。
「それは、貴方が人を襲わないようにするための詭弁だったのよ」
誰よりも人を大切にしていたけど、魔王というだけで人々は恐れていた。彼が魔族をまとめ上げていなければ、今頃人は誰も残っていなかったかもしれない。
数百年前、人は力のあるものを恐れて牙を向いた。その報いは受けるべきだと、誰もが言っていたけど、彼だけがそれを否定した。
だから一芝居打つだけのつもりだった、メロメロの呪い。彼の心を手に入れられないと分かっていたから、かけたつもりだったのに。
呪いを絆と言い切ったクロウには、敵わないのかもしれない。
「君が俺にくれた最初の贈り物。気持ちは本物だって、これから痛いほどわからせてあげるから、逃げないでね」
また、額に一瞬だけ触れるだけのキスをする。
「私あなたのモノになるだなんて、一言も言っていないわよ」
簡単にクロウのものになるとは言いたくない。
「シャーロットしか伴侶にしない。メロメロの呪いのお返しをしても良いか?」
「ダメよ、私は絶対貴方との間に子どもを産めないわ」
ギフトがある。絶対強者がどのように作用するのか、分からない。
人間に生まれた。魔力はあるから普通の人よりも長生きできると思うけど、最終的にクロウを置いて逝くことになるから。別れは常にあるものだけど彼を置いて逝くくらいなら、最初から結ばれたくない。
「大丈夫。俺がちゃんとするから最悪、そのギフトが発動しないように女神に頼んでくるよ」
サラっと言ってのけるクロウ。女神の姿を見た人はいないと聞いていて、実際に私も見たことがない。話せるのなら自分で直接話したい。
「そんなことできるの」
期待を込めてクロウに視線を向けると、眉に皺を寄せた。
「俺は魔王だ。地を守る者だと知る者は君だけ。天を守る女神と対話ができて当然でしょ?最近は離してないけど」
「わかったわ。あー魔王討伐に来たのに、どうしようブラウン様、魔物だったし」
「大丈夫じゃないか?君ならちゃんと伝えられるだろう?俺が女神に話しに行っている間に、君は一度国に帰って話していて。迎えに行くから」
☆
迎え入れられなければ入ることのできない女神の空間。それもそうか、俺は地を守り女神が天を守るから。と言いながらも、ずさんな管理と言ったら怒られそうだから、今回の件は黙っておこう。
女神は長い髪を床にそのまま流しており、天使を自分の身の回りの世話をさせるために使っていた。
俺が部屋に入っても、気にする素振りはなく、白を基調とした空間に、寝そべっていた。クッションに横たわっている女神は、天使に果物を食べさせてもらっていた。
「シャーロットに与えたギフトについて話したい」
本題から話始めると、チラッと俺に視線を向けてから、しばらく果物を食べてから口を開いた。
「一度与えたギフトに関して覆すことは出来ない」
「そんな」
シャーロットが俺の手を完全に掴んでくれるには、ギフトをどうにかしないと手を取ってくれない。絶対強者を産み落とすことをどうして彼女は恐れているのか、正直俺には分からなかった。強いならその力の使い方を教えてあげればいいだけのような気がしていたのだ。
女神は俺が不満そうにしているのが分かったのか、追加でギフトに対して説明をしてくれた。
「魂に付与しているからね。いいじゃない。自分の子供が最強で生まれてくるだけじゃない?守ってあげられないくらいの親じゃないでしょ?」
「簡単に言ってくれるな」
シャーロットを説得するのにどれだけ時間がかかるか。人間の寿命よりは長くても、俺よりは短いだろう彼女の寿命を考えると説得に時間がかかってしては駄目なような気がしてしまう。
天使に世話をしてもらっている女神は、水が飲みたいとねだっている。
「だって、大魔王様なんでしょう?何百年ぶりに再会してやっと手に入れたんなら、自分で大切なものくらい守りなさいよ」
さっさと帰りなさいよと言いたげな雰囲気だ。
「女神、お前そういう性格だったっけ?」
ずいぶん会っていなかったから俺の中にある記憶と違っている。
「最近私のところに顔を出してこなかったんじゃない」
天を司る神と、地を守る事を仰せつかった俺。魔王は霊界とも繋がっていると、地上に生きている人間達はきっと忘れてしまっているだろう。
神々との盟約を守っているだけなのに、悪者にされてしまう。
悪魔だったら、悪さをする時もあるけど、人間がその種を蒔いている時だってあるのを忘れないでほしい。
「数百年間、メロメロの呪いも受けたままだったんでしょ」
「あいつとの絆を失いたくなかったんだ」
失えば、生まれ変わった時に気がつけないかもしれないと思ったから。せめて小さな繋がりだけでも持っていたいと思った俺は間違っているのかな。
「絶対強者を生み出すギフト、貴方との子供じゃ、人間とのハーフになるわけでしょう?そのギフトが合ったほうがいいと思うのよ」
「人の子を産ませてあげることは」
人間で強いのとまものとの間で強いのでは意味が違う気がした。
「できないわね」
「ならば、そのギフトは・・・?」
「私からの前祝い。出会えてよかったわね」
「感謝、すべきか」
ハーフとして生まれるからこそ、最強でなければならないということか?人間にもなれず、魔物にも馬鹿にされる可能性があるのなら、半端な力ではいけないということか。
女神の祝福は本当に分かりにくい。
「して欲しいわ。何なら私にも何か頂戴よ」
「……分かった、考えておく。女神邪魔したな」
後は俺がシャーロットを口説き落として、説得すればいいということか。
本当に女神という生き物は素直じゃないし、分かりにくい愛情の示し方だな。
~数年後~
人が入り込めない北の森では子どもの笑い声が聞こえると、迷い込んだものが話していた。
迷い込んだら帰れないはずなのだが、その子どもたちが出口まで案内してくれるというものだった。
前世でメロメロの呪いをかけた魔王様、生まれ変わった私は貴方のことを愛せません!!! 綾瀬 りょう @masagow
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます