第10話 私の覚悟
絶対強者を産み出すギフトなんて、魔王と私の子を産ませないためのような気がしてしまった。部屋で一人用意された菓子を食べていて思ったの。
気持ちは抑えられなくて本当は魔王の呪いを解いた後手を切るべきなのに、クロウのそばにいてブラウンと対峙している。
彼の作り出した球体の中は特に息苦しいものではないが、体の中に入ってこようとする力を感じるのでとても気持ち悪い。
早く終わらせて帰らないとクロウが心配するわ。
「やっぱり君は僕のことを心配してくれるんだね」
うつろな瞳。ブラウンと接してきた時間はそんなに長くないけど、多少の情はあるつもりだったけど、目の前の彼を見るとそんな気持ちは一切なくなってしまう。
少しだけ優しくしてあげただけなのにこんなに誤解されるなんて。
だから本心だけちゃんとのべる。
チラッと勇者の剣に視線をうつすと、逃げたそうにしている。
私は心の中で呪文を唱えながら、ブラウンに語り掛けた。
「愛してくれて、ありがとう。でも、気持ちには答えられない」
手をブラウンの腰に向け、心の中で唱えていた呪文を発動させると、勇者の剣は私の手にすっとやって来た。
やっぱり彼から離れたかったんだ。
剣が腰から無くなってもブラウンは気にしている様子は無かった。
「そうか、君は剣が欲しかったんだね。あげるよ」
ギュッと剣を握りしめる。この剣は聖女が勇者の無事を願って打ったものだ。勇者に恋をした聖女の想いが込められているから、打って貰った勇者以外に使える者は限られている。
お願い、勇者の剣、私に力を貸して。
力を借りなくても倒せるかもしれないが、彼の魂は元々魔物だった。それならこの剣が最善だと思う。
剣の先をブラウンに向け、今度は呪文を口に出す。
「消える記憶、たゆたう世界。夢現、それは、本当のこと?過ぎた時間の面影は消えゆく」
生まれ変わってまた私を付きまとうことになっても困るから、一度忘却の魔法をかける。これは記憶の破壊の魔法だから、間違っても思い出すことはない。
「違う違う、僕は、君を手に入れないと」
ブラウンの背中から、羽根が生える。
魔に落ちた人間の成れの果て。いや、彼の場合は元の姿に戻ったと言ってもいいのかもしれない。
私は幼子に言い聞かせる子守歌のように、語り掛けた。
「来世では幸せになって」
苦しそうに頭を押さえながら、ブラウンは私を睨みつけた。
「貴方は騙されている、魔王が、人を愛するはずがないんだ」
「愛するはずが、ないかもしれなくてもいいわ。だって恋は気が付けば落ちているものでしょう?」
遠い記憶なので、私が先にクロウに恋をしたのか、クロウが私に恋をしたのかは覚えていない。
でも今私の心にある感情が本物だから。ギフトがあるから彼の子を産むことは叶わないけど、少しの間そばにいることくらいは許してもらえるよね?
「光り輝く、魂の故郷へお帰りください」
勇者の剣が光輝くと同時に、ブラウンの姿は灰になり崩れ落ちた。
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