第9話 (魔王視点)愛した人は

再開したシャーロットは昔のままの美しい魂で、見間違えるはずはなかった。いなくなって直ぐは絆を大切にしていたけど、徐々にその絆がハッキリとし始めたのが数十年前。だが、ハッキリと場所までは分からなかった。数日前に、シャーロットの存在をハッキリと認知できた。急いで会いに行きたかったけど、再会を祝して彼女に手料理を食べて欲しかったので少しだけ準備をする時間をとった。

 一度強靭な結界の中に入っていたので、無理やりにでも入るべきか悩んだが、出て来てくれて助かった。

 しかし、近くにある力がとても黒くて強いものだった。

 すぐに魔物が近くにいるのだと分かった。魔物なんだけれど、何か清らかな物で護られている気がしたのは、その魔物の魂の器、今回は入れ物の部分が王族のものなのだと会いにいったときに直ぐ分かった。

 おそらく彼もまたシャーロットの魂に惹かれただけに過ぎない。

 勇者の皮を被った魔物もいた。その魔物に魂の色が似ているから、当人で間違いないだろう。無意識に魅了するのであれば、力の制御を覚えてもらうほか、無いのかな。

 まぁ、再開も無事できたことだし詳しいことは後で考えよう。 

 屋敷にかけた魔法は、シャーロットのいる部屋に簡単にいけないよう目くらましの術をかけたいた。

 俺よりも下位の魔物なので、そこまでは侵入されなかった。勇者だったころの魂の力なども反映したからか、この屋敷に入り込めたのだろう。それがなければこの城は、基本的に人間は不可侵の魔法をかけている。

「やっと、見つけたぞぉ」

 かろうじて人間の姿を保っているに過ぎないような、姿だった。滲み出る魔力は魔物と同じで、腰に差している勇者の剣は聖魔法の使い手だった聖女が打ったものだとシャーロットに教えて貰った。

 小刻みに震える剣は、退魔を見つけたからだろうか。それとも今の持ち主から離れたいのかな。

「その人が僕の運命の人だと分かって、攫ったんでしょ?今世も邪魔をしないでください」

 未練を持ったまま生まれ変わってしまったのだろう。シャーロットは今も昔も俺のことしか見ていないというのに、哀れだ。

彼女の魂に惹かれるのは、同じ魔族なら理解できるが、「愛」をも俺よりもらおうとしているのは認められない。

記憶を持ったまま生まれ変わってしまうことがどれだけ不幸なのか。そう言えばシャーロットも輪廻転生で忘れてしまうかもしれないと話していたっけ。それは、こいつのように、記憶を持ったままだと心が壊れてしまうからなのかな。

 それなら、今俺の目の前に現れたシャーロットに前世の記憶があることは、負担なのかな。俺は会えない間呪いという名の絆があったから、生きられた。いつ生まれてくるのか分からないし、覚えていなくても、俺にかけた呪いを見たら気が付くと思ったから。

「全部忘れさせるのが、俺の役目かな」

 ただ一人の魂に焦がれたのがいけなかった。確かに俺の方が後に彼女と出会ったけど、愛してくれたのはこの俺だ。その立場を誰かに譲るつもりはない。

「聖女シャーロットの神からのギフトを知っているからこそ、手放しくないんでしょう?普通に考えて聖女として生まれた彼女が、魔王と恋仲になるだなんて信じられない。前世でもお前が彼女をたぶらかしたんだろう!!」

「俺は彼女に出会って愛を知った。愛を知ったから、人間と共に生きたいと思ったんだ」

 ブラウンの腰の剣がぶんぶん揺れている。

 あの剣を先にどうにかしたほうが良いのかな。

 と、考えていたら、自分の横をすり抜ける風に、先ほどまで腕の中で嗅いでいた匂いがした。

「ありがとう、クロウ様。やっぱり彼とは私が決着を着けるわ」

 飛び越えざまに俺の肩を蹴り、触れたところから魔法が展開し、俺の身動きが取れなくなる。

 シャーロットの登場にブラウンはにこぉぉぉっと口の端を吊り上げる。

 体から滲み出る魔力も桁違いに上がった。

「やめろぉぉぉ」

 俺の叫び声は届かず、ブラウンの黒い影がシャーロットを包み込み、二人はブラウンの作り出した球体の中に入ってしまった。

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