第47話 カタツムリの詰問
「カリンさんはそこで黙って見ていてくださいね」
ベッドの脇にある椅子を指差す。カリンさんは困惑しているけれど知ったことじゃない。
「いえその、私も……」
「もし勝手なことをしたら1ヶ月はおやつ抜きです」
「そんな」
「黙って見ていてください」
「……」
曇ったカリンさんも可愛いな。
「ゾクゾクする……」
マイさんは1週間我慢したから優しくしてあげたいのが本音だけど、僕に攻められたいらしいし、どうしようかな。
優しくするより強くあたられる方が嬉しいなら、そうしてあげるべきなんだろうか。初めての彼女が変態だと付き合っていくのも難しいな。
カリンさんの方をみると、寂しそうに眉を下げて僕たちを見ている。ちょっと可哀想になってきた。何かしてあげたいけど趣旨に反するから……そうだ!
「マイさん、僕のぬいぐるみを出してください」
「はい……」
なんだ、やけにしおらしいね。切り替え早すぎじゃない?変態だからシチュエーションに適応するのが上手なのかな。
マイさんがクローゼットから僕の等身大ぬいぐるみを持ってくる。普段はベッドに置いているんだろうに、僕に見られるのが余程嫌なようだ。持ってくる時も不安そうな顔で僕の様子を探っている。
ぬいぐるみには相変わらず至る所に歯形がついている。ちなみに服装はパジャマを着ている。僕の代わりに毎晩、マイさんの被害を肩代わりしてくれていると思うと申し訳がない。
「見てもいい?いいよね?それを渡して」
前回ぬいぐるみの下半身がどうなっているか僕が気にしているのをマイさんは知っている。僕が何を見るつもりなのか察してはいるだろう。主目的はそれじゃないから、別に確認できなくても構わないけど、ついでだしね。
「……」
ぬいぐるみを大事そうに抱えたまま、僕の質問には答えてくれない。
了承してくれないんだ。よっぽど嫌なんだね。だからこそ確認する意味があると言える。
「勝手に見るから」
マイさんからぬいぐるみを奪い取る。「あっ」とマイさんが声をあげるが関係なしにぬいぐるみのズボンをずり下げる。
「やっぱり」
股間の部分に噛み跡があった。腕や首周りの比じゃないくらい大量に、広範囲に。ほつれて中の綿が見えているところもある。可哀想に、毎日マイさんに大事なところを食べられて、辛かっただろう。
マイさんは、余程恥ずかしいのだろう、顔を手で覆って隠しているので、表情を見ることもできない。
「どういうこと?」
僕が聞いても沈黙を守るばかりで何も答えない。仕方がないので殺し文句を使うしかない。
「僕の質問に答えないたびに、明日以降、1日ずつお預けにするから」
顔を隠していた手を取り払って、僕を泣きそうな目で睨む。
「この部分、ほつれているけれど、どうしてこうなったの?」
「私が、噛んだので、そうなりました……」
知ってる。
「どうして、他の部分より傷んでいるのかな?」
「他の部分より、頻度が多いからです」
知ってる。
「他の部分よりよく噛むのは、どうして?どこでも良いと思うんだけど」
「……」
全部分かってるんだから答えた方がいいと思うんだけどな。
「明日はお預けです。次の質問です。嘘をついたと僕が判断したら、追加で2日お預けです」
マイさんの顔色が真っ青になる。赤くなったり青くなったり、表情豊かでマイさんは可愛いね。
「マイさんは、僕の体でどこが好き?」
マイさんの目の焦点が合っていない。多分今彼女は恥と食欲の間で戦っているんだろう。少しだけ待ってあげる。
「……指が、好きです」
嘘は言ってない。マイさんは僕の体全部が好きだろうからね。でも誤魔化そうというのが丸わかりだ。
「嘘を言っていないのは分かるよ。マイさんは僕の体が丸ごと好きだもんね?」
「はい」
今のは質問のつもりじゃなかったけど答えてくれたならそれでもいい。
「じゃあ、質問を変えよっか。次で最後にしてあげる。僕の体で1番食べてみたいのはどこ?」
汗だくで、視点が定まっていない。
「…………ま」
小さな声で何やら呟いているけど聞こえない。
「聞こえないよ、はっきり言って。せーのっ」
「……たまです」
薄ら聞こえたけどまだ足りない。
「声が小さいよ、次でダメだったら1ヶ月お預けだからね。はい、せーのっ」
「あたまです!」
……え、予想の斜め上なんですけど。
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