第46話 カタツムリの本気
「私たちは夫婦になりました。ご祝儀をください」
日曜日、帰ってきたマイさんを
僕から言おうと思って覚悟を決めていたのだけれど、まさか出会い頭にマイさんに言うとは思っていなかった。用意していた言い訳が全て使えなくなり、尚且つこんな人目につく場所で大喧嘩というか修羅場が始まってしまうのかと戦々恐々としていると、いつもと変わらない素振りでマイさんが喋る。
「大体想定通りなんだけど、取り敢えず家に帰ろうよ。カリンちゃんの惚気は後で聞いてあげるから。私疲れちゃった。カリンちゃんのご飯が食べたい」
そう言ってすげなく僕の隣を確保して、空いているもう片方の腕に腕を絡ませる。僕は2人の美少女に両腕を拘束されて逃げることも出来ない。
「つまらないですね」
「こうなるように立ち回ったからね、私はみんなで幸せになりたいんだ」
混乱する僕を尻目に、2人だけで分かったかのようにやり取りをしている。僕にも説明をして欲しい。でもまずは謝罪だ。嘘を吐かずに謝って誠意を表明しなければ、その後の言動に説得力は皆無だ。
「マイさん、申し訳ないんですが僕は不貞を働きました。全て僕の責任です。本当に悪いと思っています。だけど……」
「ヌルくんのことは責めないし、カリンちゃんのことも責めてないから安心して。そもそも私がカリンちゃんを焚き付けたからね。『1週間で落とせ』って」
何それ。マイさんそれで良いの?倫理観とか道徳とかどこ行っちゃったの?
「ヌルくんは今時の中学生とは思えないような古い貞操観念を持っているけど、そんなのは厳しめの日本でも隅っこも隅っこ。マイノリティだよ」
「でも僕はマイさんが他の人と仲良くしていたら嫉妬します。カリンさんと関係を持ってしまったので、僕はもうマイさんを怒れない。そんなのは嫌だったんです」
それももう後の祭りだ。マイさんが、カリンさんが僕以外の人を好きになっても、僕は怒れない。怒っても、寛容な態度でいなければならない地獄が待っている。
「聞いたカリンちゃん?『僕だけを愛してくれ』だって。こんなのプロポーズだよ。今夜はお泊まりにしようね」
「震えるほど嬉しいです。お赤飯を炊きましょう」
「言っておくけど、私は1週間も我慢したんだから、優先してもらわなきゃそれこそ修羅場だからね」
「大丈夫です、分かっていますよ。私は十分堪能させて頂いたので。でも3人でしましょうね、ここは譲れません」
「まあ、仕方がないか。分かったよそれでいこう」
マイさんはそう言うと、スマホを取り出して電話をかけ始めた。
「もしもし、マイです。透子さん、今帰ってきました。はい、後でお土産をお持ちします、はい。さすが透子さんです、その通りです、明日の朝までお預かりします、まだですね、早く分化してもらえるように頑張ります。はい、それではまた」
え、何、今の会話。母さんにかけてたの?なんで分化の話題になったの?
「許可はもらったから、ヌルくんは明日朝帰りだよ」
◽️◽️◽️
「まい、聞いてください。ヌルミチさんが初めて食べて欲しいって言ったんですよ。私にです。まいじゃなくて私にです」
「嘘だよ、ヌルくんは私にも言ってくれたことがあるもん、私が最初だよ」
「いつですか、見栄を張らないでください」
「ヌルくんが幼児化する前に、両目を食べて欲しいって言ったもん」
「どうせまいが無理やり聞き出したんでしょう。性癖を強要しないでください。それにそのせいで、ヌルミチさんは幼児化したんですよね、誘導尋問した上で催眠をかけるなんて変態が過ぎます。さらに言えば私は胸です。代表的な性感帯の一つです。目なんてマニアックすぎて世間が認めません」
「論点のすり替えだよ、初めてが誰かっていう話をしているんだよ。私が1番でカリンちゃんは2番。これは変わらない事実で、それ以外の情報に意味なんてないの、はい論破。あと目は決してマニアックじゃないから。ヌルくんの趣味だから尊重しようね」
なんだか2人で喧嘩してるんだかいちゃついているんだか分からないやり取りをしている。心臓に悪いのでやめてほしい。これも僕の優柔不断が原因だと思うとさらに胸が苦しくなる。辛い。
「お願いします、喧嘩しないで」
「じゃれているだけだから心配しないで」
「そうですよ、群れのオスはどっしりと構えていてください」
まだオスにさえなれていないんです。
「これで僕が分化して女になったらどうやって責任を取ればいいんだろう」
責任が重すぎて女の子になっちゃうよ。
「それもいいかも」
「でもそれだと確かに私が想定しているあれやこれが出来なくなります」
「どんなの?教えてよ」
「えっと、ごにょごにょ……」
「カリンちゃんそれはえっちすぎるよ、流石の私でも引くレベル。1週間でタガが外れ過ぎだよ」
「そうですか?それならまいも胸を責めてみると良いですよ。私の気持ちが分かります。すごかったですよ、ヌルミチさんのあの声は。隣の教室には絶対に聞かれてしまいましたね」
やめて、恥ずかしくて死んじゃう。
「でもやっぱりヌルくんには男の子になってほしいよね」
「女の子のヌルミチさんも良さそうですが、そうですね」
「じゃあ、第1回『貝被 塗道を男にする会』作戦会議を開催します!」
何も嬉しくない。大人になれればなんでもいいよ。
「ヌルくんは食べられる都合上、受け手に回りがちなんだよね」
「男になってもらうためには、責めることを覚えて頂きたいですね」
受け責めの話を女子中学生がしないで欲しい。
「強気でオラつくヌルくん見てみたいな」
「言葉責めもいいのですが、やはり肉体的接触を伴ったものが好ましいですね」
勝手なことばっかり言ってさ。僕が本気を出したら、2人とも理性が吹っ飛んで、僕が跡形も残らないで食べられちゃうぞ。それでもいいのか?この中で性欲が薄いor無いのは僕だけなんだからね。
「というわけで、ヌルくんには今日は責めに回ってもらいます」
「楽しみです」
後悔させてやろう。
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