第44話 カタツムリは食べて欲しい
「内鍵の辺りを2本の帯が、まるで鍵を開けようとするみたいに動き回って、それで……」
カリンさんに僕が見たものを説明する。伝わっても、伝わらなくても別にどちらでも良い。ただ吐き出したかった。自分の中に溜め込みたくなかった。あんな恐ろしいものは早く忘れたい。
「そんなふうに見えるのは初めてだったんですか?」
カリンさんは僕にしか見えない、頭のおかしいような体験談を真剣に聞いてくれていた。時折頷いて、合いの手を入れて。僕はその優しさに甘えるように、内に溜まった恐怖を言葉にして吐き出した。
「具体的な形をとったものを見たのは初めてでした。いつもはあやふやな霧状をしているので。だから余計に異常が際立って、怖くてどうしようもなくなってしまいました。でも、カリンさんのおかげであれに直接触れなくて済みましたし、落ち着きました。本当にありがとうございます」
「あそこまで取り乱すとは思っていなかったので、私も驚きました。ですがやはりスラグの方が感じるくらいですから、彼女は危険ですね」
「……もしかして、カリンさんはこうなることが分かっていて、僕に付き添って部室にいてくれていたんですか?」
「7割、当たりですね。まいが自分のいない間に、彼女が部室に来るかもしれないと言っていました。前回もまいの不在を狙ったようなタイミングだったとのことで、警戒していました。私も賛成して、このような対応になりました。貝被さんを不安にさせるといけないので、お話はしませんでしたが」
僕だけ警戒心が足りなかったみたいだ。情けない。
マイさんが、カリンさんがいなければ気絶していただろう。例の彼女が強引に部屋に入ってきて、僕は乱暴されていたかもしれない。
「そうですか……あれ、残りの3割はなんですか?」
「えっと、とても言いづらいのですが、私の成長のためが2割と、あとはその、今はまだ、言葉には出来ませんね」
なんだろう、僕が知るとまずいことなのだろうか。残りの1割が気になる。
それよりも、今日の日課をこなさないといけないだろう。予期せぬトラブルのせいで、カリンさんのお腹を満たせていない。何より……。
「カリンさん、そろそろ始めませんか?」
「すみません、催促するような形になってしまって。今日は遠慮します」
「僕に気を遣っているのなら、気にしなくて良いですよ」
「いえ、そう言うわけでは」
「じゃあ、僕からお願いします。まだ少し恐怖が残ってるみたいなので、カリンさんに上書きして欲しいんです。カリンさんに食べられるのは怖くないですし、むしろ落ち着くような気がします」
「えっと、その……」
「初めてです。食べて欲しいって思ったのは」
マイさんにも言ったことはない。
「お願いします、僕を食べてください」
◽️◽️◽️
「どこが良いですか?」
いつもは僕が言うセリフを、今日はカリンさんが言う。僕がカリンさんにお願いしている立場だから、僕が答えなければならない。
「そうですね……」
恐怖からか、胸の辺りがモヤモヤとしている気がする。この不快さを排除しないと、いつまでもあれを思い出してしまいそうだ。
「骨より外側なら問題ないので、胸の辺りを食べて欲しいです」
胸周りは薄いのでお肉は食べるところが少ないと思うけど、足りなければ他のところも追加で食べてもらえばいい。
「分かりました。あとは任せてください。あなたは動かなくて良いですよ」
そう言って、カリンさんは僕をベッドに押し倒す。僕は仰向けになって、カリンさんを見上げる。カリンさんに押し倒されたのはこれが初めてだ。
僕のシャツに手をかけて、ボタンを1つずつ外していく。全て外し終わったところで、シャツを観音開きにしてじっとりとした目つきで僕の胸を眺める。いつものカリンさんとは違う。怖くはないけれど、獲物を狙う猛禽類のような雰囲気を僕は感じた。
品定めが終わったらしい。カリンさんが僕の胸に顔を近づける。脇の下のあたりに、ちょんと舌が当たって、思わず声が溢れてしまう。来るのが分かっていても、最初の一触れはどうしても耐えられない。
触れたところから、そのまま僕の左胸の下のあたりに口を運んでいく。当然、口の動きに合わせてカリンさんの舌先も横移動する。僕の肌に触れたまま舌が動くと、それに合わせてゾクゾクと寒気が昇ってくる。
毎回思うけれど、この前戯みたいな工程は必要なのだろうか。食べるだけじゃダメなのかな。マイさんも、カリンさんも、食べる前にこれをやりたがる。決まって僕の顔色を窺いながらだ。僕の反応を見るのがそんなに楽しいのだろうか。
引き続き、カリンさんは舌先で僕の胸を弄ぶ。尖った先端を避けるように大きく円を描く。そして少しずつ、円を小さくしていく。くすぐったい。
「かりんさん、んっ、くすぐった、いです」
僕は抗議するけれど、カリンさんは僕と目を合わせたまま、何も言わない。そのまま円が小さくなっていく。そして……。
「ふっ、ん、あっ」
先端に舌先が触れる。触れたことで水気を帯びて、そのあとに続いてカリンさんの呼気が当たって、ほんのわずかな刺激を僕に加える。それを何度も繰り返して、僕をいじめるのだ。
「いじめな、いで、はやく……」
はやく食べて欲しい。
そう言い終わる前に、カリンさんは先端を口に含む。そして歯を立てて、いつもの液体を僕に流し込んだ。
これは、僕の想像が甘かった。ずっと咥えるのは卑怯だ。不利すぎる。
「あっ、ん、くぅ」
咥えたまま、吸い上げられる。溶けるまでの間待っていれば良いだけなのに、カリンさんはそうはせずに僕で遊ぶことを決めたようだ。吸って、吸って、舌で舐る。耐えられない。僕は両腕を振り回して抵抗する。するとカリンさんが僕の腕を掴んで、ベッドへ押さえつける。刺激を外に逃すことすら許されない。もう無理だ、押さえつけていた声が溢れてしまう。
「ああっ、ふあ、あああああ!」
脱力したいのに、刺激がいつまでも続くから、許されない。
地獄のような責めは、消化液が馴染んで感覚が薄くなるまで続いた。
やがて柔らかくなった僕の胸を、カリンさんがゆっくりと齧り、咀嚼していく。ほとんど皮だけの僕の胸を、剥ぐようにして食べていく。
左胸を全部食べてもらった。さっきまであった恐怖は、かなり薄まっていた。カリンさんが僕の恐怖ごと食べてくれたみたいだ。晴々とした気持ちで、僕はカリンさんに話しかける。
「右側も、お願いします。カリンさんに食べて欲しいです」
満面の笑みでカリンさんが頷いて、後半が始まった。そして全て終わったとき、僕の胸に染み付いていた恐怖は全てなくなっていて、カリンさんのお腹の中へ移ったのだった。
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