カタツムリの僕はマイマイカブリの君に恋をする

第39話 カタツムリとピロートーク

「いつもあんなふうにしているんですか？」

　カリンさんが僕の隣に寝転んで尋ねる。耳元で囁かれるのでドキドキする。

「ヌルくんがすごいんだよ、口先で人を操る天才だと思う」

「人聞きが悪いことを言わないでください」

「お嬢様がおかしくなってしまったのも分かる気がします」

　誤解だ。カリンさんがマイさんに嘘を教えられるのは回避したい。

「そもそも目隠しをしたがるのはマイさんです。そういう趣味があるとしか思えない、歪んだ性癖です」

「否定しないけど、ちゃんと理由はあるよ。ヌルくんに感情を見られちゃうと、責められっぱなしで絶対に勝てないから視覚を奪わなきゃいけないの」

　あーそういう狙いがあるのか。納得した。

「視覚を奪っても、余計に口先で私たちを操ろうとするから厄介なんだけどね」

「そんな能力はないですし、つもりもありません」

「じゃあ、試しにカリンちゃんを明日部室に来るように説得してみてよ。カリンちゃんは出来るだけ抵抗して」

　ずるいよそれは、説得したくなっちゃうじゃん。やるけど。

「カリンさん、明日部室に来ませんか？明日は美味しいおやつを用意してお待ちしてますよ」

　僕のことです。

「明日は用事があるので、申し訳ありませんが」

「そうですか、残念ですね、諦めます」

「え」

「その代わりに、今カリンさんと少しお話ししたいので付き合って下さい」

「それは構いませんが……」

「カリンさんはマイさんとはいつからの付き合いなんですか？」

「お嬢様が生まれた時からです」

「では、いつからそんな話し方なんですか？」

「えっと、どういう意味ですか？」

「お嬢様なんて話し方は、従姉妹相手に普通しませんよね、歳が近ければ尚更です」

「……」

「お父さんにそういうふうに接しろと言われたんですか？」

「……」

「まあ、そこはどうでもいいんです。でも、マイさんの言うことを聞いて、従って、遠慮してばかりいたら、カリンさんの欲しいものは手に入りませんよ」

「私は別に……お嬢様が良ければ」

「じゃあさっきはなんで、僕の脚を譲らなかったんですか？」

「あれは、気の迷いで」

「欲しいものを欲しいと言うのが気の迷いですか。欲しいのは否定しないんですね。マイさんが食べるなといえば食べないんですか？」

「そんなことはありません」

「そうですよね、実際に僕の脚を譲らなかったんですから。じゃあ気の迷いじゃないですよね。欲しいのも否定しないし、食べるなと言われても食べるんですから」

「……」

「カリンさん、僕は美味しかったですか？」

「美味しかったです、とても」

「僕が気持ちいいと言った時、カリンさんは頑張って食べようとしてくれましたよね、それに、一生懸命に飲み込んでくれました。僕もすごく嬉しかったです。ありがとうございます」

「……」

「お父さんに言われたら、僕を食べることを諦めますか？マイさんに譲りますか？」

「私は……」

「マイさんに、部室に誘われても抵抗しろと言われたときに、嫌だと思いませんでしたか？僕がすぐに諦めたとき、残念だと、もっと粘れと思ったんじゃないですか？」

「……」

「今までずっと、そうやって言うことを聞いて、我慢してきたんですね。でももういいんですよ、我慢しなくて。マイさんは、カリンさんが僕を譲らなかったとき、実は楽しそうにしていましたよ。声で分かります」

「お嬢様は……」

「マイです。お嬢様じゃなくて、マイって呼んであげれば、喜びますよきっと。まずはそこからです。さあ、呼んであげて下さい。待ってますよ」

「……まい、私も、部室に行っても、構いませんか？」

「いいよ、カリンちゃん、約束だからね？」

　成功しちゃった。