第35話 カタツムリと運動会5
「ふう」
なんとか勝てた。めくり勝負は僕には向いていないな。
「すっごーい!ヌルくん強いじゃん!」
マイさんが大喜びで後ろから僕の肩を揺する。喜んで貰えて何よりです。
「カッコよかったですよ、彼氏さん、ポーカーお強いんですね」
カリンさんも嬉しそうに僕の隣で微笑む。勝負の緊張で僕の手は汗ばんでいるだろう。申し訳ないです。
「手札が見られてるみたいにレイズしてくるからやりにくかったよー。強いねー」
「ありがとうございます、先輩は表情が読めなくて大変でした」
テケ先輩が褒めてくれた。モヤが見えなきゃ苦戦していたと思う。だって表情では全く分からないからね、先輩は。
「後半は怖くて腰が引けちまったな、いやー強かった」
「そういうふうに立ち回ったからね。ザトウは押し引きがはっきりしててそこが嫌だった。最後とかは、降りようかかなり迷ったよ」
「ヌルくんはプロとか目指せるんじゃない?」
マイさんそれは褒めすぎだよ。
「プロは確率の計算をしながら押し引きするから、顔色で判断してるだけの僕じゃ無理ですよ。計算できる気がしないし。計算する人は顔色に出ないんじゃないかな、多分」
確率を信じている人なら、感情のモヤに色が出にくいと思うし、生身じゃないAIとかコンピューターには僕の戦法は通じないだろう。実際、1人でゲームをやっている時は勝てなかったし。
『残り30秒で通常フィールドに強制帰還になります』
アナウンスが入った。一仕事終えたけれど、まだゲームが終わったわけじゃない。緩んだ気を引き締めないと。
「じゃあ、またどこかで会えたらよろしくお願いします」
「おう、じゃあな」
「じゃあねー彼氏くん」
各組がそれぞれ、光に包まれて転移していく。僕たちもまた、白い光に包まれた。
気がつくと僕たちは、元の崖の上に戻ってきていた。
「お、帰ってきたね。今ので報酬はいくらくらいになったかな?」
「手繋ぎ分を抜くと、ポイントはプラス20、資金はプラス40000ですね、累計で53ポイント、資金は67000です。時間を結構使っているにしてもかなり上位だと思います」
カリンさんが答える。そんなに稼いでいたんだね。
「カリンさんと手を繋いでいるのが大きいですね、毎回、資金とポイントが貰えるので。頑張って最後までこのまま行きましょう」
「……そうですね、頑張りましょう」
今回の運動会で、マイさんの企みというか、計らいもあってカリンさんとも仲良くなれそうだ。カリンさんとも長い付き合いになるだろうし、マイさんに感謝しなくちゃいけないな。まあ、やりすぎなところももちろんあるけれど。
その後も僕たちは協力して双六を攻略していった。
ダイスの出目もその後は大人しく、危ない絵面も発生しなかったので本当に助かった。最終的に僕たちは総合成績で全312組中、まさかの11位となった。惜しくも表彰台は逃すことになったが、目立ちすぎると危ない映像が広まってしまうためこの順位で助かったと言えだろう。マイさんも大満足だった。
結局僕とカリンさんはゲームの初めから終わりまでの約3時間、ずっと手を繋いだ状態でゲームを完走した。運動会が終わって帰る時になって、空いている左手に僕は少しだけ寂しさを感じたのだった。
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