第31話 カタツムリと運動会2
このゲームはマス数200程度の、双六だ。もちろんルートによってゴールまでの最短マス数は変わるし、ショートワープなどもある。元になるゲームがあって、それを中学の運動会用に改編したものが使用されている。
小学校でも運動会は同じゲームをプレイしたし、運動会とは関係ないオフでも、友達や家族と遊んだことがある。割と有名なゲームだ。やりこんでいる訳では無いが、両手だけでは数えられない程度には経験がある。
普通は1人1組で競うのだが、今回は3人1組で他のサーバーのプレイヤーと順位を競う形なのでダイスは順番に振ることになる。
まずカリンさんが、次にマイさん、最後に僕の順だ。カリンさんがダイスを振った。ちなみに基本は1d6だ。30センチくらいの大きなダイスを、カリンさんが持ち上げて放り投げる。見た目の割に緩やかな放物線を描いて、静かに着地してからコロコロと転がって目が示された。
「5です」
「期待値以上だ、幸先良いね」
3人で5マス進む。5マス目に3人ともが乗ったところでイベントが始まる。
『カリンがヌルミチと手を繋いだまま次のイベントを終えるとプラス2ポイントと資金2000を得る、なお獲得できるポイントと資金はイベントを終えるたびに得る』
「……お嬢様、男女混合のコース3を選びましたね?」
「親睦を深める目的なんだから当然それで申請したよ」
満面の笑みでマイさんが頷く。厄介なことをしてくれたようだ。
このゲームはマスの内容がある程度コース分けされていて、最初の設定で選べる仕様になっている。
男性のみコース、女性のみコース、男女混合コース、ファミリーコース。大枠はこの4つだ。その中で更にコース1、コース2、コース3と細分化されている。
男女混合のコース3はいわゆる合コンコースと言われている。リア充専用コースだ。プレイヤー同士の肉体的な接触の機会が多く設定されている。いちゃつくためのコースと言えるだろう。実際に初回からカリンさんと手を繋ぐことになってしまった。
「さあ、私のヌルくんを貸してあげるからお手手繋いで仲良くしようね」
マイさんが僕の手とカリンさんの手を強引にとって繋ぎ合わせる。
「終わってから報復しましょう」
「了解しました」
カリンさんと頷きあう。手を繋ぐのは恥ずかしいけどこのゲームはまだ序盤だ。この後もっと恥ずかしい目に遭うのが僕もカリンさんも分かっているので、今は同じ意志を持つものとして協力し合おう。
「ダイス振るよー、2だ、残念」
手を握ったまま2マス進む。少しドキドキするけどそのうち慣れるはずだ。
『カリンが10回縄跳びする。成功するとプラス2ポイント』
シナジーが働いてしまった。2人で縄跳び10回はキツくないですか?
僕らの目の前に縄跳び用の縄がポンと現れる。ご丁寧に縄がちょっと長い。2人で飛ぶ事を前提に用意されたみたいだ。
「難しそうです」
カリンさんがぼやく。僕としても2人で手を繋ぎながら縄跳びをした経験なんてない。あまり自信は持てない。
「タイミング合わせて行きましょう。せーのっ」
「1、2、3……10!」
「2人ともやったね!ハイタッチかもんー」
マイさんが両手を上げるので縄跳びを放ってカリンさんと片手ずつでハイタッチする。思ったより楽しい。
「これで一気にポイント4と資金2000ゲットだよ、まだまだ稼いでランキング上位を狙おう!」
カリンさんともハイタッチする。やってみると結構楽しいし、カリンさんも笑顔だ。
「次は僕ですね、振ります、6です」
「彼氏さん流石です」
手を繋いだまま僕たちは6マス進む。
『カリンがヌルミチの指を咥えたまま、マイがヌルミチにビンタする。成功ポイントプラス3、資金プラス5000』
「どういう絵面だよっ!」
運営仕事しろっ、中学生だぞ!親が見てるんだぞ!セーフティフィルターを設定しとけよ!
「カリンさんやらなくて良いですからね!」
「カリンちゃんは知らないだろうけど、ものすごく美味しいよ」
「マイさん少しは自重して!」
「……彼氏さんは嫌じゃないんですか?」
「えっ、僕は、その」
「ヌルくんは私の時は初対面であれだったし嫌じゃないでしょ」
「嫌では、ないですが……」
でも、カリンさんは嫌でしょ?よく知らない人の指を咥えるなんて。
「では、させていただきます」
そう言うと、カリンさんは僕と手を繋いだまま僕の前に回り込んで、しゃがみ込んで僕の空いた手を掴む。
「失礼します、んっ」
僕の指がカリンさんの口に収まる。生暖かくて、チロチロと舌先が僕の指に触れる。マイさんのそれとは、若干、ざらつき具合とかが違っているのが分かる。
まさか本当にするとは思っていなかった、だけどしてしまったのなら仕方がない。さっさと終わらせて次へ進もう。この絵面は出来るだけ短い時間で終わらせる必要がある。
「マイさん早くビンタして、お願い」
女の子に両手を繋がれた状態で指フェラされながら、別の女の子にビンタしてと嘆願する変態が世の中にはいるらしい。僕だ。
「何も悪いことをしていない彼氏を殴れるような女だと、私は思われているんだね、傷つくな」
オヨヨと泣き真似をするマイさん。あ、これダメなやつだ。
「カリンちゃん、状況があなたの味方をしているよ、ここは私に任せて気の済むままにやっちゃって」
僕の味方はしてくれないんだよな、状況さん。
マイさんの言葉に触発されたのか、カリンさんが僕の指を咥えたまま、舌で指を舐め始める。目を細めて、舌を絡めながら唇で揉むようにして僕の指を味わっている。ああダメだ、カリンさんもそっちの人だった。
ちゅぽ、と音を立てて、カリンさんの口が僕の指を離れる。
「美味しいです」
「だよね、やっと共有できる人ができて私嬉しいよ」
これ親に見られてるっていう自覚あります?お茶の間凍るよこれ。
「味が薄くなってきたら別の指でローテしよう。そのうち食べたくなってくるけど、今日は我慢だよ、明日まで取っておこうね」
「はい、ん」
そう言ってカリンさんは別の指に口をつけ始めた。
変態だらけの運動会はまだ始まったばかりだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます