第28話 カタツムリはマイマイカブリになる
マイさんの匂いがする。
僕の周囲全てがマイさんの匂いに包まれている。
ああ、そっか、ついに、マイさんがやらかしてしまったのか。
僕は今、マイさんのお腹の中にいるんだ。
多分マイさんは、タガが外れてしまったんだ。前から危ういとは思っていたけれど、やっぱり、としか言いようがない。
僕を食べるのが楽しすぎて、気持ち良すぎて、ついつい食べ過ぎてしまった。そんなところだろう。僕を丸ごとお腹に収めてしまった。
今頃マイさんは、泣いているのかな。僕を食べ過ぎちゃって、もう僕に会えなくなって。罪の意識に耐えかねて、死んじゃったりしないといいけれど。
だって、もうこれで僕たちはずっと一緒なんだ。僕はマイさんの栄養になって、マイさんの血肉となって、マイさんと同じになる。僕はもうマイさんだ。こんなに嬉しいことはない。
だからマイさん、悲しまなくていいんだ。
あれ、なんでマイさんが
「なんで
マイさんの中にベッドがあって、僕の隣にマイさんが眠っている。どういうことですか。
「あなたは何を言っているんですか?」
背中側、寝ているマイさんの反対側から声をかけられたので、身を起こして振り返ると、少し離れたところに敷かれた布団の上で、僕と同じように身を起こしている、ダマスターぽい見た目の人が目に入った。
パジャマを着たその人は、薄暗くて少し分かりづらいけれど、マイさんにすごく良く似ている。
「マイさんがまた増えた。嬉しいけど、もうお腹いっぱいだよ」
「私はお嬢様ではありません。シマカリンです。お嬢様起きてください、彼氏がお嬢様と私を間違えて、私が襲われてしまいます」
「うーん、何、どしたの?」
寝ていたマイさんが起きた。多分こっちの彼女が本物のマイさんだ。それでもってあっちの布団のマイさんがマイさんじゃなくてシマカリンさん?
なんで僕はマイさんと同じベッドで寝ていたの?なんでシマカリンさんも一緒なの?ここはどこ?部室じゃないよね?
「えっと、すみません、どちらでも構いませんので状況を説明して欲しいんですが」
⬛︎⬛︎⬛︎
「僕が幼児退行してマイさんの家で一晩過ごしたと」
全く記憶にない。なんだその面白い状況は。
「なんだ残念ですね、僕はてっきりマイさんに全部食べられちゃったんだと思って」
「残念?」
シマカリンさんが怪訝な顔で僕を見やる。まずい、失言だったみたいだ。
「変態のお嬢様の相手もまた、変態ということですか……」
どうやら変態は2人いたようだ。僕だけじゃなくて安心した。でも変態度合いならマイさんは僕の10倍は変態だ。全体的に見れば僕は普通の範疇に入るはずだ。一緒にしないで欲しい。
「全然覚えていないの?どこから?」
「マイさんが食べられたところまでは覚えているんですけど……」
ぶほっ、とマイさんが音を立てて吹き出す。
「お嬢様、私にまだ話していない事があるみたいですね、彼氏さん、続けて下さい」
「マイさんが僕の目を食べちゃって、僕の腕も食べちゃったところで、見えない何かにマイさんが食べられちゃったんです。そしたらそいつが、頭を下げてお願いするなら、僕を食べてお腹の中でマイさんに合わせてやるって言ってきたんで、お願いしたら、薄暗くてマイさんの匂いがしたから、なんで僕マイさんの中にいるんだろうなって」
「もういいです。お嬢様言い訳をどうぞ」
「ヌルくんも気持ちよさそうにしてた」
「完全に犯罪者の言い分ですね、私は今まで変態とひとつ屋根の下で暮らしていたのかと思うと、身の毛がよだつ思いです」
毛、あるんだ。どこだろう。
「カリンちゃんもやればわかるよ、一緒にしよう」
何言ってんのマイさん。おかしくなっちゃったの?
カリンさんが頭を抱えて呻き出した。
「お嬢様が、おかしくなってしまわれた……小さい頃は私の後をいつもついてきて、可愛らしかったお嬢様が、肉欲に囚われてしまった……お労しい」
「えーっと、マイさんがおかしくなっちゃったのは前からですので、僕のせいではありません、一応言っておきますが僕はマイさんによっておかしくされてしまった被害者です」
「自分だけ被害者ぶってずるいよ!」
「なんならマイさんは今この時もえっちなことを考えています。僕には見えるんです」
さっきから薄く桃色が漏れ出している。
「なんでバラすのさ?」
「シマカリンさんを誘ったあたりからです。流石に僕もドン引きしてます」
「ああああああああ!」
「もうやめて、聞きたくない」
さて、このカオスな状況をどう収拾していけば良いだろうか。
窓から朝日が差し込み始めた。今日もいい天気になりそうだ。
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