第26話 マイマイカブリは反省する

「どうしよう」


 私の腕の中で、ヌルくんが号泣しながら、私の名を口にし続けている。


 目隠しプレイをやっていたら、いつのまにか恋人が幼児退行していた。


「良かった、マイさんにまた会えた。好き、大好き、マイさん好き」


 彼には目を食べたと言ったが、実際は食べていない、ハンカチで包んだだけだ。視界を奪ったら、明らかに彼が狼狽したので、こういうのが好きなんだなとつい嬉しくなってしまった。本当の彼の姿を見つける事ができた喜びで、やりすぎてしまった。


 実際に私が食べたのは左手の指を3本だけ。でも彼の反応が可愛かったので腕を全部食べたふりをしたら、本当に無くなってしまったと彼は勘違いした。ちなみに指はまだ再生していない。


 両腕が無くなってしまったと勘違いした彼を見ていると、ゾクゾクと込み上げるものがあった。もう少し苛めてあげたくて、私は私を食べたことにした。これがいけなかった。もう一種の催眠状態になってしまった彼は、私に会いたいと叫ぶので、愛しくなってしまってまた意地悪をする。私のお腹の中の私に会いたければ丁寧に私に食べられたいとお願いしろ。何を言ってるんだろう私は。


 最後の最後になってマズイことになってしまったのを察した私は、催眠状態が解けるようにそれっぽい指示をしたけれど、全く無駄で、結果はこの通り。


「好き、マイさん好き、ずっと一緒にいる」


「どうしよう」


 幼児退行継続中だし、左手の指は欠損したままだし、時間はもう遅いからそろそろ学校を出なければいけない。でもこの子を家に送るとしても異常すぎて絶対に問題になる。何よりさっきから私と離れることをすごく嫌がる。


「もうどうしようもないよね」


 諦めてスマホを取り出して、知り合いにかける。


「カリンちゃん、ヘルプミー」


 とりあえず、今晩彼氏を連れ込む許可を得る。文句を言われたけど他にどうしようもない。


 この状況をどうやって説明したものか、頭を悩ませつつも、私は彼のスマホから彼の自宅へ、今日は私の家に泊まることを伝えるために電話をかけるのだった。




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