第18話 カタツムリは招く2
「ここが僕の部屋です。そちらにかけてください」
マイさんには普段僕が使っている座椅子を当てがう。僕はつむりの部屋から借りてきたアンモナイトのクッションに腰を落ち着ける。
「母とは随分仲良くなったみたいですね」
下から上がる時に一緒に持ってきた飲み物をローテーブルに置きながら、マイさんに話を振る。
「そうだね、お母様とは大分仲良くなれたと思うよ。お父様とはなかなかお話し出来なかったけれど」
「お昼時でも話は出来ますし、まだ機会はありますよ」
夕方くらいまでは一緒に家で過ごす予定だから、いくらでもタイミングはあるだろう。父も今はあんなだけど、時間をおけば落ち着くはずだ。
「妹(仮)は今は遊びに出掛けているみたいです。昼に帰ってくるとは思いますが」
「つむりさんっていうんだっけ?仲良く出来たら良いんだけど」
「マイさんなら問題はないでしょう、つむりは社交性の塊みたいなやつなので」
それにしても、やっぱり家族に紹介するのは少し疲れたな。仲介役っていうのをあんまりしたことがないからか。部屋で2人きりになって、ようやく落ち着いた感じがする。
マイさんの様子を見ると、先ほどよりかは硬さも取れて柔らかい感じになっているけど、他人の家だからか、まだ少し緊張しているようだ。もう少し慣れて欲しいし、僕から話題を振ろう。
「そういえば、校外学習はどうでしたか?楽しかったですか?」
「うん、1日目は移動と工場と資料館の見学、2日目は郷土史館、博物館、美術館の見学。3日目はほぼ移動で時間がなくなっちゃったけど。連休はレポートをそれぞれ書かなきゃいけないから大変だよ」
「結構数を回るんですね。どれがどれだかわからなくなってごっちゃになりそう。来年は僕もいくことになるから、レポートの内容を考えながら回らないとですね」
「同じところになると思うから、なんなら先輩がアドバイスしてあげるよ。あ、あとお土産買ってきたよ。これどうぞ」
マイさんがポシェットから紙袋を取り出して僕に手渡す。
「開けますよ」
「どうぞ」
にこにこしながら僕の反応を期待しているようだ。上手く反応できれば良いのだけれど。何が入っているのかな。
「これは……巻貝のキーホルダー?」
紙袋を開けると、そこにはデフォルメされた巻貝がデザインされたキーホルダーが入っていた。なんで巻貝?スラグだから?
「かわいいでしょ?私も同じの買ったんだ。えへへ、お揃いだよ」
マイさんのスマホに付けられた、僕のとは色違いのキーホルダーを見せつけてくる。確かにデフォルメされている分可愛い。お揃いなのも、うん、嬉しい。
「ありがとうございます。いただきますね。確かに可愛らしいですし、マイさんとお揃いなのも嬉しいです。嬉しいんですが、マイさんこれどこで買ったんですか?」
マイさんの旅行先は確か隣県のあの辺りだったと思うけど、こういうのが有名だったかな。
「……帰りのサービスエリアで買いました」
「ふふっ」
「なんで笑うのさー!」
「いや、普通はこういうのって旅行先の特産品を買ってくると思ってたので。でも良いですね、僕もスマホに付けます。お揃いですね。大事にします」
「分かれば良いんだよ分かれば」
マイさんが偉そうにふんぞり返っている。良かった。緊張も取れたようだ。せっかく招待したので、馴染んでくれると嬉しくなる。
僕たちが笑い合っていると、廊下の方から声が聞こえてきた。まだ昼には早いと思うけど、なんだろうか。
「おにーちゃんが彼女連れてきたってほんとー!?」
ドタドタと廊下を走る音と、つむりの大きな声が響いてきた。
「こら、邪魔しないの!至してたらどうするの!?」
何言ってんだ母さん。相手5年生だぞ。
「よくわかんないけどつむりも混ぜてもらうー」
混ざるな!
ドタドタという足音が廊下の前で止まる。
「おにーちゃんはいるよーいいよー」
僕はいつの間にか了解したことになっていた。フリーダムすぎて妹(仮)の将来が心配になる。世の小5はこんなに幼いのだろうか。ドアが開いて、つむりがこちらを覗き込んだ。
「おおー、彼女、お茶してる?そんな冴えないやつよりこっちで私とお茶しようよ、奢るぜ?」
マイさんを見ると吹き出して笑っている。そりゃ笑うだろうねこんな奴がいきなり現れたら。
「紹介します、妹(仮)のつむりです。こういう奴なので上手く付き合っていくしかありません。慣れてください。つむり、ちゃんと挨拶しろ」
「こんにちは、貝被 つむりです。愚兄がいつもお世話になっております。この度は弊社のつむりが大変ご迷惑をおかけし、申し訳ありませんでした。今後ともよろしくお願いします」
お客さんが来てるせいか、いつもの3倍くらいぶっ飛んでいる。絶対準備してたなこいつ。マイさんがお腹を抱えて笑っているがどうしようもない。
なんとか笑いを落ち着けてから、マイさんが挨拶した。ごめんなさい。バカな妹(仮)で。
「ふっふふ、マイナネルータ・ダマスター・テュロスです。マイって呼んで欲しいです。つむりちゃんって呼んでもいい?」
「かまわんぞ、そなたの好きにすると良い、マイ殿。では、さらばじゃ」
アホのつむりはそう言って去っていった。嵐のようなやつだ。
マイさんはまたお腹を抱えて爆笑し始めた。しばらくツボに入ってまともに会話できそうもない。
昼飯の時間になるまでしばらく部屋で待機していたけれど、時折マイさんが思い出し笑いし始めるのが見ていて楽しかった。
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