第2話 カタツムリは学ぶ
「というわけで、宇宙に地球人類が進出して、そこから150年経ってようやく、地球外人類との意思疎通が可能となったわけだ」
マイナネルータ先輩に助けて貰ったあと、貰った水を少しずつ飲みながら学校へ到着した。当然だけど遅刻してしまった僕は、1限の授業が終わるタイミングを見計らって、10分程度昇降口で時間を潰してから、教室に入った。
入学してからまだ2週間しか経っていないのに遅刻で目立つのは嫌だった。小学校から一緒の友達もクラスに何人かいるけれど、他所の学校出身の子が圧倒的に多い。目立っていじめられるのは怖い。
なんとか目立たずに2限の授業から参加出来た。科目は地球人類史だ。
「コミュニケーションが出来るようになると、地球に移住した地球外人類と、地球人類との間での婚姻が少しずつ行われるようになった。合わせて法改正もな。今では隣人が地球外人類でも何も特別なことではないが、当時は地球人類から地球外人類への差別が多く、世界的に問題になっていた」
僕の場合は日本人の母とスラグ星からの第二世代移民である父のハーフになる。僕の外見は父の遺伝子が強く影響したので、体表をヌルヌルとした水分が覆っていて、2足歩行で2本の腕が有り、頭部には日本の大触角とその先に母似の黒い瞳、口周りに小触角、身長は142センチ、背中には巻貝を背負った、どこにでもいる一般的なスラグ系日本人と言える。ちなみに僕の1つ下には小学生の妹(仮)がいる。外見は大触角があることと、巻貝を背負っていること以外は、日本人の母の特徴が強く現れている。目は地球人のように触角の根元にあるのだが、本人は触角の先にある方が良かったといつも愚痴を言っている。
「外見的な問題はもちろん、各種族での繁殖方法、雌雄の有無、食文化などの違い、多様性を許容、法整備するのには大変時間がかかるし、今でも解決していない問題は多い」
スラグ人の遺伝子を持つ僕は雌雄同体なので、雄としても、雌としても繁殖が可能だ。だけれど、第二次性徴でどちらかに分かれる。どちらに分かれるかはそれまでの生活環境、性的嗜好に左右される。要は心理的になりたい性別になれる。なのだけれど……。
僕はどちらになりたいんだろうか。
第二次性徴もほぼ終わり。だというのに体にそれらしい変化はない。これは僕がどちらにもなりたがっていないということだろうか。
「君たちのような世代を重ねた新地球人類が成長して、このような種族間の問題の解決に取り組んで行けば、いつかは本当の種族多様性が実現出来るかもしれない。今日はここまでだな」
終わりのチャイムが鳴ったので、先生が授業を終了する。僕も机の上を片付けて、次の授業の準備を始めた。
◾️◾️◾️
昼休み、昼食を食べ終えたので、マイナネルータさんの教室へ向かう。今朝のお礼をするために、ひとまず予定を聞かないと行けない。でも自分で言っておいてなんだけれど、お礼って何をするのが失礼に当たらないのだろうか。お菓子でも送れば、無難かな。
2年B組って言ってたよね。上級生の教室に行くのは気が引けるな。
目的の教室の前で僕は尻込みしていた。ドアが開いていればまだ入りやすかったのに、閉まっているから開けた時に目立ってしまう。
どうしようかと扉の前で迷っていると、横からヌコヌコと声をかけられた。
「君、1年生だよね?誰かに用事?」
不定形で、身長50センチくらいの水っぽい人だ。色は黒っぽいけど、光の反射でところどころオイリーな感じがする。身体中から何本もの触手が伸びて、その内の1本が僕の目線の高さでうねっている。これが彼の
「はい、1年の貝被です。えーっと、マイナネルータ・ダマスター・テュロスさんに用事があって来たんですけど……」
「マイちゃんに用事か、ちょっと待ってて」
彼の人は僕にそう言って、その短躯に似合わない勢いで扉を叩きつけるように開けると、大きな声で呼びかける。
「マイちゃーん、お客さんだよー!」
あまり目立つのは嫌なんだけどなと思いながらも、開いた扉から中を覗く。
教室の中では何人かのグループに分かれて談笑していた。グループを順に目で追っていくと、窓際に今朝方見た黒い甲殻の先輩の姿を見つけた。先輩も僕に気づいたようだ。こちらへと向かってくる。
「テケちゃん、ありがとう。あとは大丈夫だよ」
「やるなーマイちゃん、1年生を早速手籠にしちゃったのか?このこのー」
「違うってば、今日の朝、困ってたからちょっと手を貸してあげただけだよ」
気まずい。
性別が分からなかったけれど、多分女の人だ。この人。なんかキャピキャピしているし。
「あの、すみません、話を進めてもいいですか?」
「あ、ごめんね、お邪魔虫は退散しますー」
ヌコヌコとテケちゃん先輩が教室の奥に行ったので、改めて、マイナネルータさんに挨拶をする。
「休み中にすみません。今朝のお礼がしたいんですけど、放課後時間はありますか?」
「えっ、いいよ、気にしないで」
「飲み物だっていただきましたし、何もしないわけにはいかないです」
「うーん」
先輩が顎に手を当て考えている。腕が4本もあるのに器用に使うものだなあと思う。
「それじゃあ、まずは話をするために、部室に来てくれるかな。ここで問答するのも良くないだろうし」
「部室、ですか?」
「うん、私、異種族文化部なの、部員1人だけど。そこなら誰にも迷惑かけないから」
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