第4話

 上村が幽馬の追求を受けた翌日、明南高校男性教師の事件が全国に報じられた。上村の自白を元にした報道により、事件の真相が明らかとなった。


 ――事件が起きた日の深夜、上村と渡辺美代子は一緒に大川緑地公園に向かった。ともに自殺するつもりだったのだ。渡辺美代子は進路に悩み、上村に相談していた。その際に、彼女が思いつめ自ら命を絶つことをほのめかしたため、上村も共に自殺する約束をしたのだった。しかし、上村は自殺する直前に怖くなり止めた。一方の渡辺美代子は上村に約束を守るように詰め寄ったため、上村は衝動的に彼女の首を、自殺のために持ってきたロープで絞めて殺してしまった。そして、犯行を隠蔽するため、彼女の遺体を木に吊るし上げ、自殺に見せかけたのだった――。


 上村の罪が明るみになり、明南高校は慌ただしかった。記者が校門に詰めかけ、教師は対応に追われていた。幽馬のクラスも、事件の話題で生徒の皆が騒然としていた。だが、幽馬は一人、自分の席で静かに真剣な表情を浮かべていた。渡辺美代子の霊はまだ成仏していなかったからだ。そして、成仏できないでいる理由を幽馬は知っていた。上村の自白には嘘が混じっていたのだ。


 職員室で幽馬と上村が話した日、幽馬が上村のスマホで見た映像には、上村が渡辺美代子を辱めている様子が記録されていた。真夜中、雨で濡れている様子から察するに、公園で撮られたもののようだった。つまり、上村は衝動的に犯行したのではなく、自らの肉欲を満たすために計画的に犯行に及んでいたのだった。上村の壊れたメガネや彼女の泥だらけの靴下は、彼女の必死の抵抗を示していた。幽馬はこの事実を知りつつ、上村が渡辺美代子の無念と自身の保身のどちらを取るかを確かめるため、あえて映像については追及せず、知らないふりをした。見せかけの懺悔では、彼女の恨みを晴らせないと幽馬は考えた。


 事件が報道された日の放課後、幽馬は渡辺美代子の席の前に立ち、人型に切り取られた紙を彼女の机に置いた。その紙には、”上村恭介”と筆で書かれていた。

「渡辺さんがこの紙に願えば、きっと上村に報いることができる。これで渡辺さんの恨みが晴れるかわからないけど、渡辺さんが怨霊になる前に僕ができるのはもうこれしかないんだ。どうするかは渡辺さんに任せるよ......」

幽馬は渡辺美代子の霊にそう語りかける。彼女は何も言わず表情を変えない。幽馬は、何もできなくてごめん、と言って、教室を去った。


翌日、上村恭介が自宅で自殺したことが報じられた。死因は首吊りによる窒息死だった。遺書などはなく、自殺の理由はいまだに不明だという。

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霊の恨み、晴らします。 @jori2

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