第3話

 幽馬が上村のスマホのスリープを解除すると、パスワードを求められたが、画面にノイズが走り、自動で解除され、フォトアプリが開かれる。渡辺美代子の霊が導いているのだ。動画の再生がはじまり、画面に映ったものを見て、幽馬は戦慄した。動画を見終わった後、幽馬は急いで学校を出た――。


 次の日の放課後、幽馬は上村を視聴覚室に呼び出し、質問した。

「先生は渡辺さんが好きだったキャラクターをご存じですか。机の上にそのキャラクターのグッズがお供えされてますし、先生も知っていると思うのですが」

「ああ、あれな!でも、名前は出てこないな......。最近の若者の流行にはついていけなくてな」

上村は少し戸惑いつつ、苦笑しながら答えた。

幽馬は、そうですよね、と言いながら、自身のスマホを取り出して、上村に画像を見せる。画面には、"丸ばつくん"という全身黒色のペンギンのようなキャラクターが映し出されていた。上村はそれを見て、思い出したかのように声を上げた。

「ああ、それだ!見た目なら覚えてるよ」

幽馬は、上村の反応を見ると、とたんに真剣な面持ちになり、上村に問う。

「本当にこれで合っていますか?」

幽馬の雰囲気の変化を感じ取り、上村は、どういう意味だ、と言って少し慌てる。幽馬はカバンから、キャラクターが描かれた汚れた靴下を取り出して上村に見せる。

「これは渡辺さんの遺品です。昨日、お母さまからお借りしました」

上村は何も言わずに靴下を凝視して息を吞む。幽馬は続ける。

「見ての通り、この靴下は泥だらけで、もとのキャラクターが何か一見はわかりづらいです。そのキャラクターとは――」

幽馬はシナモンドールのグッズをカバンから取り出して上村に見せながら、幽馬は話し続ける。

「これはシナモンドールというキャラクターです。真っ白な愛らしい見た目が女性に人気なようです」

幽馬は、スマホに映された丸ばつくんとシナモンドールのグッズを並べて話し出す。

「これ、同じキャラクターに見えるでしょうか?」

上村はおどおどとしながら、答える。

「最近、目の調子が悪くてな。この通りメガネを外したせいかな......」

上村が自分の顔を指さしながら、見間違えてすまんな、と言う。すぐさま幽馬はシナモンドールのグッズを下げ、渡辺美代子の遺品の靴下を掴み、丸ばつくんの画像と並べて話し出す。

「そうなんです、先生は目が"悪かった"。先生がメガネを外した日と渡辺さんが自殺した日が一致しているんです。先生はあの日、目が悪い状態で、この泥だらけの靴下を見ていたから、間違えたんです。この正反対の見た目のキャラクターを見間違えるなんて、普通に考えてありえません」

上村は幽馬の言葉に目を丸くした後、すぐさま冷たい表情になる。

「俺が渡辺を殺したとでも言うのか?たまたまメガネを外したタイミングが合っているだけで犯人と決めつけるなんて馬鹿げてるぞ。これを学校に報告すれば、お前は退学になるかもしれん」

上村はそういうと、貼り付けたような笑顔になって、幽馬に語りかける。

「今謝れば許してやるから。な、幽馬」

幽馬は毅然とした態度で説明を続ける。

「いいえ、先生が犯人です。はっきりと言います。渡辺さんは自殺ではなく、先生が殺したんです」

上村は、また冷たい表情に戻る。

「そこまで言うなら証拠があるんだろうな」

幽馬は、これを見てもまだそう言えますか、と言いながら、カバンから”あるもの”を取り出す。それはグラスが割れたメガネだった。

「これ、先生のメガネですよね?」

上村は、目と口を丸くさせ、声を出すことができないでいた。その様子を見て、幽馬は静かな口調になる。

「これは渡辺さんが亡くなった大川緑地公園で拾ったものです。クラスの人が、先生のメガネだ、って教えてくれたんです。このメガネが先生が現場にいた証拠です。先生がメガネを外したタイミングは、渡辺さんの自殺のタイミングと一致し、先生のメガネが公園に落ちていた――。グラスが割れているのは渡辺さんが抵抗したからでしょう?すべての辻褄が合うんです」

幽馬の推理を聞いて、上村は力なく地面に倒れ込んだ。幽馬は上村の様子を見て、静かな口調になる。

「先生、自首してください。正直に言って、渡辺さんを成仏させてあげてください」

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