第2話

 放課後、幽馬は渡辺美代子の席に向かい、彼女の霊に尋ねた。

「君の死に、先生が...何か関係あるの?」

幽馬がそう尋ねると、彼女はすぅっと動き出したので、後を追った。


 彼女が向かった先は職員室で、扉を通り抜けていった。幽馬は扉を開いて、職員室のなかを覗き込むと、彼女はある机の前で何かを示すかのように、少し下に視線を向けていた。幽馬が彼女の様子を伺っていると、彼女が横に立っている机にだれかが座っているのが見えた。座っている人は机に顔を向けて作業をしているのか、ものに隠れて頭頂部しか見えない。顔が見えないかと幽馬が目を凝らしていると、隠れていた顔が上がった。正体は上村だった。上村は顔を上げたときに、こちらに気づいたようで、立ち上がった。

「どうした?入ってきなさい」

上村は幽馬に声をかけながら、机の上にあった何かを動かした。幽馬は、その動きを見逃さなかった。彼女の視線は、上村が動かした何かに向いていたからだ。幽馬が上村の席に向かうと、彼女の視線の先にあるのはスマホで、裏向きに伏せられていることに気が付いた。幽馬は一呼吸して軽い調子を装い、上村に尋ねる。

「渡辺さんについて、ちょっと気になることがありまして。自殺の原因が分からないんです。クラスでイジメがあったような様子もなかったですし、不思議だなって」

幽馬は、上村から冷たい面持ちでジロリと見られた気がした。その後、すぐに上村は深刻な表情になった。

「おそらくは進路に関する悩みが原因だろうな。何度か相談に乗ってはいたんだが......悔やまれるな」

上村は、俯き加減にそう答えた。直後、幽馬はゾクリと悪寒がした。そして、空気が震えていた。上村は、地震か?と言いながら辺りを見回す。幽馬は、渡辺美代子のほうを見ると、無表情のまま、ただならぬ気配を放っていることに気づいた。幽馬は、憎しみや冷ややかな怒りが入り混じった感情を間近で感じ取り、呼吸が激しく乱れる。空気の震えは次第に増していく。上村は手で机を掴み、幽馬は地面に手をつく。幽馬はうまく呼吸ができず、意識が遠のきかけた。そのとき、パリンと天井から大きな音がして、職員室が薄暗くなった。空気の激しい震えに蛍光灯が耐え切れず、割れてしまったのだ。上村はワッと声を上げて、立ち上がる。

「用務員さんを呼んでくるから、そこで待っていなさい。危ないから気を付けるんだぞ」

上村は幽馬にそう告げて、職員室から慌てて飛び出した。上村が職員室からいなくなると、次第に悪寒が収まり、幽馬は地面にへたり込む。幽馬は呼吸を整えながら、大量の冷や汗が額ににじんでいることに気づいた。ただごとじゃない、と思いながら、幽馬は上村の机に手をかけて、立ち上がる。そのとき、机にかけた自分の手の横に、裏返された上村のスマホがあることに気が付いた。幽馬は、上村が職員室から出ていったことを確認して、スマホを手に取り、スリープを解除した。

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